Column

二十四節気と七十二候

秋分 –秋、深まり始める秋分日–

二十四節気

秋分しゅうぶん:新暦9月23日頃

陰陽の中分なれば也(暦便覧)

「暑さ寒さも彼岸まで」の言葉通り、大気も安定し、どんなに暑い年でもしのぎやすくなる頃です。澄み渡る夜空に輝く月は、電灯のない時代、収穫の心強い灯となりました。中秋の名月のお月見をされた方は、次いで美しいとされる十三夜のお月見も。一方しか観ないことを「片見月」と呼び、縁起が悪いとされてきました。今は「両方見ると縁起が良い」という程度に楽しむのが吉。十六夜と二十三夜も、この季節は格別に美しいとされています。種類の増えていく虫の声、逆に消えていく越冬に向かう虫の声を聞き分けつつ、海・山・畑の幸で「食欲の秋」を満喫しましょう。反面、台風の発生件数は多いので、気象情報にはご注意ください。

七十二候

雷乃収声かみなり すなわち こえを おさむ:9月23日頃

激しい雷鳴が響かなくなる頃。雷鳴の少ない秋の稲光は幽玄として好む人も多いですね。初日となる「天文学上の秋分日」は、日本時間で地球が秋分点を通過する日を計算して算出することになっています。9月23日となる年が殆どですが、21~24日と年によって異なります。祝日法によって「国民の祝日である秋分の日」は、秋分日と同じとすると定められています。
リンク:処暑 七十二侯「禾乃登」

蟄虫坏戸ちっちゅう こを はいす:9月28日頃

虫が土中に掘った穴をふさぐ頃。「蟄虫」は「すごもりむし」とも読み、昆虫だけでなく爬虫類や両生類を含みます。冬籠りをする蛇や蜥蜴、蛙や蛇も心地よく冬を越せる場所に移動していきます。ペットの体調にも気を配ってあげましょう。人間社会も、昔は冬用の厚い扉に変えたり、雨戸やがらり戸の整備をしました。10月1日は全国殆どの地域で衣更えを迎えます。

水始涸みず はじめて かる:10月3日頃

田畑の水を干し始める頃。刈取りを待つばかりの状態にしましょうと言う意味ですが、今では9月中に刈取りが終わってしまう品種が多くなりました。古本屋に行くと「水が凍り始める頃」とだけ記載されている本や冊子が見つかります。この季節に「水が凍る」というと田から水を抜くことを指すと、多くの人が知っていたということでしょうか。

季節のことば

彼岸ひがん

彼岸は春と秋の年2回。秋分日は、秋の彼岸の中日です。お供えには秋は「おはぎ」、春は「ぼたもち」とよく聞きますね。秋の七草の第1草「萩の花」を模したのが「おはぎ」、春の名花「牡丹」を模したのが「ぼたもち」。その季節で最も美しい花を模したら、偶然にも同じようなお菓子が生まれました。どう呼ぶかいつ食べるか論争はつきませんが、大事なのは偲ぶ心。お墓参りの際は、供えたらすぐに下げ、そこで食べると、ご先祖様が喜ぶと言われています。
リンク:「白露の時期の草花と生き物」季節の草花-秋の七草-萩の花
おはぎ

鱗雲うろこぐも

澄み切った秋の青空によく似合う、魚の鱗のように綺麗に並ぶ雲。鰯雲(いわしぐも)、鯖雲(さばぐも)とも。全て秋の季語です。巻積雲・絹積雲(けんせきうん)のことで、雨の前触れの雲としてよく知られています。雨が降り出すのは半日から1日あとで、的中率は70%を越えます。もこもこしたものは羊曇(ひつじぐも)とも名前で呼ばれますが、これは新しい言葉です。
鱗雲

落穂おちぼ

名画「落穂拾い」(ジャン=フランソワ・ミレー)でもお馴染みの、簡単でありながら手間がかかる大変なこの作業は、小さい子が必ずやらされたお手伝いでした。地面に目の近い子どもには最適な農事で、子ども同士で数や早さを競争したり。遊び楽しみながら「1粒も無駄にしない」「大変」「苦労は喜びとなる」など、色々なことが学べました。

ひつじ田

稲刈りのあと刈り株から生えた青い芽を「ひつじ」と言い、それが一面に生え揃ったのが「ひつじ田」。その様子から、毛を刈り、刈ったそばから一斉に生えてくる動物の「羊」を「ひつじ」と読むようになりました。羊が献上された記録は599年が初。その後何度も献上されましたが、骨の出土がないため、冷涼な気候に適した羊は日本では育たなかったことがわかります。
羊毛産業のために輸入した記録は1805年が初。残念ながら失敗に終わり、1875年に大久保利通によって開かれた宮内庁下総御料牧場で、本格的な羊の育成と羊毛産業の研究がようやく始まりました。その貴重な記録が「成田市三里塚御料牧場記念館」で見ることができます。因みに干支の伝来は554年より前のことで、「未」として絵姿は知られていました。
ひつじ田

この時期の風習や催し

十三夜

陰暦9月13日。後の月(のちのつき)とも名残の月とも言います。旬を迎える豆や栗をお供えするので「豆名月」「栗名月」の別称があり、収穫祭の意味合いが強いお月見をしました。「十三夜に曇りなし」という譬えの通り晴れとなることが多いため、翌年の収穫の吉凶を占う日とする地域もありました。主に麦の作柄を占ったので「小麦の名月」の名も。

社日しゃにち

雑節の一つ。秋分に最も近い戊(つちのえ)の日に産土神(うぶすながみ/生まれた土地の守護神)を祀ります。白露の末候か秋分の初候となり、田の神を送る意味合いを持って土の神に参拝し、初穂を供えるなどして収穫を感謝します。秋社(しゅうしゃ、あきしゃ)とも言います。春分に最も近い日にも社日(春社/しゅんしゃ、はるしゃ)を行うからで、こちらでは五穀豊穣を祈ります。

招き猫の日

9月29日を『来る福』と読ませる語呂合わせから誕生した、比較的新しい記念日。ネットの時代を迎えて瞬く間に全国に定着し、招き猫や猫ゆかりの地で様々なイベントが行われています。日本生まれの人気の縁起物が主役であったことが定着の大きな要因と言われています。因みに新しい記念日を提唱することは誰でも可能です。認定と登録は一般社団法人日本記念日協会へ。
招き猫

季節の食・野菜・魚

落花生

収穫直後の掘りたてでしか味わえない、落花生の最も美味しい産地だけのお楽しみ「茹で落花生」の季節。掘りたてが手に入ったら、塩分濃度3%以上の熱湯で茹でます。品種によって茹で時間は異なりますが、最長で50分ほどです。お酒のお伴に子どものおやつにぴったりの味です。たくさん茹でたら冷凍保存しましょう。
茹で落花生

はぜ

沙魚、蝦虎魚も正字。 鯊の仲間は種類が多く、淡水域・汽水域・浅い海水域などに適合し、世界に2100種類以上、日本には300種以上が生息しています。9月下旬からが旬の美味い鯊と言えば、マハゼ、ダボハゼと呼ばれるチチブ、アゴハゼの3種類が流通量も多く有名です。いずれもカルシウムを豊富に含み淡泊な味で、天ぷらが一番美味しい食べ方とされています。
マハゼ

里芋

縄文時代から栽培されてきたことがわかっている最も古い作物の1つで、栗と共に長く主食の座にありました。神に奉納した収穫祭の意味を持って始まった芋煮会が、10月初旬から、各地の収穫の終わる時期に合わせて順次行われていきます。剥いて茹でるという調理はかなり贅沢なものなので、庶民が一般的にするようになったのは江戸時代頃ではないかと言われています。
里芋

関連項目

参考文献