二十四節気
春分
日天の中を行て昼夜等分の時なり也
年に2回、太陽が真東から昇って真西に沈んでいくのが春分と秋分。この2日間は昼と夜の時間が同じになるとされていますが、実際に時間を比べてみると昼の方が若干長くなります。というのも、太陽が少しでも頭をだせば日の出=昼になるのに対して、太陽が頭の先まですっかり見えなくなるまで、日の入り=夜とはされません。つまり、太陽1つ分だけ昼の時間が長くなる、というわけ。他にもいくつかの理由から、例年10分ほど昼の方が長くなっています。
春分を境に日脚は伸び、季節は春、そして夏へと移ろっていきます。
七十二候
雀始巣
スズメが巣を作り始める頃。民家の軒先や、人里近くを巣作りの場所に選びます。実は巣作りがちょっと苦手なスズメたちは、同じく家の軒先に作られるツバメの巣を横取りしようとちょっかいを出すこともしばしば。ツバメにとってはずいぶん迷惑なご近所さんというところです。木々が枝葉を伸ばし、スズメが隠れるほどに茂ることを「雀隠れ」とも。
桜始開
桜が開花し始める頃。日本の春は「桜の開花宣言」なしには始まりませんね。恒例だった気象庁による開花予想は平成21年で終了し、以後は民間の気象会社によって行われています。日本地図が徐々に桜色に染められていく「開花」「満開」前線のニュースも、日本ならではの春の風物詩です。
雷乃発声
春の雷が鳴り始める頃。はじめて雷の声を聞く頃には、雨も降り始めていよいよ農作業の季節に。ただし活発な前線の活動の証でもある春の雷は、雹をともなって作物に被害を与えることも。科学の発達した現代でも抗えない大自然の営みです。
季節のことば
春暁
「春は曙。やうやう白くなりゆく山ぎは少しあかりて紫だちたる雲の細くたなびきたる」
春は曙の時間が素晴らしい、と明け始めた空の景色を描写した『枕草子』の一節ですが、かつては「暁」と「曙」にはきちんとした区別があったようです。
真夜中を過ぎ、これから明るくなるけれどまだまだ暗い。そんな未明の時間帯が「暁」で、ようやく夜が明け始めてほのぼのと辺りが明るくなっていく頃が「曙」。暁は「明け時」、曙は「明け+ほのぼの」が語源と覚えると、時間の経過が分かりやすいですね。
時代の流れとともに厳密な区別はされなくなって、暁も曙も明け方の頃を表す言葉として使われるようになりました。
「春暁」といえば、「春眠暁を覚えず」でおなじみの孟浩然の漢詩も有名ですね。どうにか眠い体を叩き起こして、清少納言がみたような暁の絶景をカメラに収めたいものです。
寒の戻り
立春を迎えて暦の上でもいよいよ春。木々の花もほころんで、あとは暖かくなるばかり。と、思っていた矢先に突然吹き付ける冷たい風。片付けた冬服、また出さないと…。
立春を過ぎた頃に再び冬型の気圧配置が訪れ、冬に逆戻りしたような天気になることを「寒の戻り」「寒戻り」「いて返る」「冴え返る」などといいます。高気圧と低気圧のせめぎ合いから冷たい雨を伴うことも少なくなく、体を冷やさないように要注意。
「暑さ寒さも彼岸まで」というように、大気が落ち着いてやっと安心して春仕様の服に変えられるのは、春分の前後からでしょうか。とはいえ、桜の頃にも「花冷え」が訪れたりと、しばらく油断は禁物です。
立秋を過ぎてまだまだ暑い日を「残暑」というように、寒の戻りを「余寒」「残寒」ということもあります。
彼岸
「彼岸」は仏教の言葉で、文字通り「向こう岸」のこと。修行という苦しい河を渡りきった先にある岸、悟りの境地という意味でしたが、日本では亡くなってホトケになったご先祖様たちが暮らす場所、つまり「あの世」を指す言葉に。春分と秋分を中日にして前後それぞれ三日間がお彼岸とされています。
ご先祖様を供養するため仏前に彼岸団子、彼岸餅をお供えしたり、お寺に彼岸参りに出かけたり。他の桜に先駆けてこの頃に咲く彼岸桜が、お墓に彩りを添えてくれているかもしれません。
春彼岸の頃にもっとも美味しくなるのが彼岸フグで、フグの王様トラフグより美味だとささやかれることも。ただし内臓や皮に強い毒をもっているので、彼岸フグを食べて自分が「彼岸」に旅立つ…なんてことのないように。
春のお彼岸の初日を「彼岸太郎」といい、この日に晴れると作物がよく実るという言い伝えもありました。
この時期の風習や催し
犬山祭り
毎年4月の第一土・日曜日、愛知県犬山市内を巨大な山車が練り歩く犬山祭り。発祥は同市内に鎮座する針綱神社のご祭礼で、寛永12(1635)年、大火の復興祈願を目的に始められたと伝わる、400年近い歴史を誇る伝統行事です。
見所はなんといっても地元で「車山(やま)」と呼ばれる巨大な山車。屋根までの高さはおよそ7メートル。全国的にも珍しい三層式の豪華な屋台で、下段では笛や太鼓のお囃子が、最上段ではこれも珍しい江戸時代から伝わるからくり人形による名演が披露されます。
近隣の町内から繰り出された13基の山車は、祭りのクライマックスには犬山城下に大集合。夜、それぞれの山車に365個もの提灯がセットされ、やわらかな光を放ちながら行進する様子は圧巻です。夜桜、提灯、山車の織りなす幻想的な情景は、国宝犬山城とともに地域のご自慢となっています。
家康行列
徳川家康誕生の地であり、家康を支えた三河武士団発祥の地でもある岡崎は、家康の天下統一のスタート地点ともいえる場所。そんな家康公との深いご縁から、岡崎市では毎年春の風物詩として「家康行列」が催されています。
鎧兜に身を包み、「いざ出陣!」の構えの徳川家康を筆頭に、1000人近い大武士団、お姫様の行列が市の中心部を練り歩きます。一団のなかには井伊直政、本多忠勝など三河の猛将も勢ぞろいで、約1時間半の行進の間には、鉄砲隊による火縄銃の演武などなかなかお目にかかれないイベントも。歴史ファンにはたまらない、そうでなくても見惚れてしまう時代絵巻さながらの隊列が繰り広げられます。
家康行列は岡崎桜まつりのメイン行事として続けられているもので、祭りの期間中には夜桜のライトアップなども行われます。
お遍路
1200年前、弘法大師空海が歩いたという、四国八十八ヶ所の霊場を巡拝するお遍路の旅。信仰の旅、人生を見つめ直す旅、最近では「パワースポット巡り」として歩く人もいるとかで、若者にもじわり人気となっています。
おきまりの白い装束に、笠を持って歩くのがお遍路の基本スタイル。笠に書かれた「二人同行」の四文字には、「いつでもお大師さまと二人一緒」という意味が込められています。徳島県の霊山寺を旅のスタートにするのが一般的ですが、それぞれの体力や予算などにあわせてフレキシブルに計画できるのもお遍路旅のよいところ。一歩一歩自らの足で歩く人、バスや車で回る人など思い思いに祈りの道を進みます。
気候のよい春がお遍路に人気のシーズンということで、季語としては春。秋にお遍路巡りをするのは「秋遍路」といわれます。シーズン中の3月21日は弘法大師の命日とされ、高野山をはじめ各地のお寺では厳かな法要が営まれます
季節の食・野菜・魚
蕗
山菜は、この時期にしか味わえない春の食卓のお楽しみ。栽培ものの山菜も増えてきましたが、味の深み、香りの強さではやっぱり野のものに軍配があがりそう。
フキは日本原産の山菜ですが、人の手で育てられるようになったのも随分早く、8世紀頃には栽培が始まっていたよう。その後江戸時代になってさかんに育てられるようになりました。地下茎で増えていくので、プランターなどで比較的手軽に育てることもできます。
ふきのとうはてんぷらや蕗味噌にしていただきますが、ふきの茎は煮物や炒め物に。噛み切れない硬い繊維を丁寧にとったら、アク抜きに下茹でを。
全般的にアクや苦味の強いのが山菜の特徴ですが、こうした強い苦味が体に入ることで老廃物が排出され、冬仕様になっていた体を目覚めさせる効果があると言われています。「春には苦味を盛れ」という昔の人の知恵ですね。
さくらえび
毎年3月の下旬頃から漁期を迎え、「桜」を冠した名前とともに春の香りを運んでくれる桜エビ。
意外にも桜エビ漁が始まったのは明治になってからのことで、うっかり深海に網を沈めてしまった駿河湾の漁師の失敗がこの漁のきっかけになったのだそう。今も国内のものは100パーセント駿河湾産で、湾に面した由比港の許可された漁船だけが獲ることを許されています。
小エビの仲間で殻まで食べることができるので、下処理のいらないカンタン食材としても人気。生きたままの流通が難しいので、新鮮なものはぜひ駿河湾にでかけて食べたいものです。
かき揚げを豪快にごはんに乗っけたかき揚げ丼が有名ですが、他にも塩茹でにした釜揚げや、漁師特製の桜エビの沖漬けなどご当地には美味しいレシピもたくさん。弾力とともに口いっぱいに甘みの広がる生食もオススメです。
帆立貝
貝殻を開いた姿が帆を立てているようにみえることから帆立貝。貝を帆にして、風を受けて波の上を進むのだと信じられていた時代もありました。
魚ほど見た目に変化がでない貝類は、旬を見極めるのも難しいのだそう。ホタテは身が厚くなってくる春から初夏の頃と、夏の暑さを乗り切って産卵に向け栄養を蓄える秋の2シーズンが美味しい時期とされています。
アミノ酸を豊富に含み、肉厚な貝柱を噛みしめるごとに旨味が吹き出してくるようですが、美味しいだけでなく亜鉛などミネラルもたっぷりの健康食材。タウリンの含有量は魚介類中トップレベルで、血圧や肝機能への効果、美肌効果まであるというから食べない手はありません。
バター醤油でさっと焼いただけでもGOOD。茹でた身をほぐしてサラダに入れてもヘルシーにいただけます。貝ひもも捨てずに、よく洗って酢の物や煮物にすれば美味しさが染み出してきます。
- 新版 美麗写真でつづる 日本の七十二候 晋遊舎
- 二十四節気と七十二候の季節手帖 山下 景子著 成美堂出版