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季節の草花と生き物

春分の時期の草花と生き物

春分しゅんぶん:新暦3月21日頃

 この日を境に日照時間は伸びる一方。まさに春の陽気といった毎日に、動物たちの活動もより活発になっていきます。食べ物も増えるこの時期は子育ての季節、恋の季節。のどかに聞こえる鳥たちのさえずりも、必死のラブコールであったりするわけです。

二十四節気:春分について

季節の草花

 ただ「花」といえば桜を指すように、日本人にとっては桜は特別な存在。お花見も、花より団子とはいいながらいつもの飲み会とは違った「年に一度の特別な宴席」といったニュアンスを持っています。お花見に関する言葉を並べてみるだけでも、花見酒、花見船、花疲れ、夜桜、桜月夜、花篝、花朧…と、辞書をひらけばまだまだいくらでも。それだけ庶民に楽しまれたイベントだったのですね。
 数ある品種の中でも、今の日本で最も愛されているのがソメイヨシノ。芽より先に花だけが開くため満開時の美しさは格別で、わずか1週間ほどの短い花期も儚さを感じさせて好まれています。野山に自生する桜の代表はヤマザクラで、京都嵐山や吉野の千本桜など名所も多くあります。ほかにも白い花の美しいオオシマザクラや、樹齢が長く何百年、千年という老巨木に育つエドヒガンなど、園芸品種も含めればその種類は300ともいわれ、いかに桜が愛され、手を掛けられてきたかを物語っています。

花言葉:心の美しさ、優美な女性 など

吉野山千本桜

吉野山千本桜

木蓮もくれん

 3月の下旬から4月頃にかけて、天に向かって花びらを開くようにやや大ぶりの花を咲かせます。広く世界中で栽培されていますが、日本では特に街路樹に好んで植えられ、単調なオフィス街に春の訪れを教えてくれる貴重な存在となっています。
 クリーム色がかった白花を咲かせるのがハクモクレンで、紫色の花はシモクレン。花びらは朝日を浴びてほころび、夕暮れとともに閉じられます。
 同じモクレン科で、よく似た白い花を咲かせるのがコブシ。人の拳大のつぼみを、まるで握り拳を広げるように開花させることから名前がつきました。
 遠目にはよく似たコブシとハクモクレン。モクレンの方が少しだけ花期が早いのと、空に向かって花びらを揃えて開くのがモクレン、思い思いの向きに開花するのがコブシと覚えておくとすぐに見分けられます。

花言葉:自然への愛、崇高 など

紫木蓮

紫木蓮

連翹れんぎょう

 まぶしいほど黄色い花を木全体に咲かせる姿は「目にも鮮やか」という言葉がぴったり。庭木に好まれて、日本じゅうどこの公園でも見ることができます。
 蔓のように枝を長くのばして増えていく半蔓性の植物で、この長く枝垂れた枝の一本一本にたっぷりの花をつけて見事な花姿になるというわけ。漢字で書くと「連翹」で、翹はしなやかに弧を描いた鳥の尾羽のこと。木の姿を見事にとらえた名前ですね。
 新潟県新発田市の紫雲寺地区ではレンギョウを「町の花」として大切にしてきました。道沿いや家々に植えられたレンギョウが一斉に花咲く4月頃、一帯は「レンギョウ街道」と呼ばれて、桜とレンギョウの共演が楽しめるお花見スポットして有名になっています。

花言葉:希望の実現、集中力 など

レンギョウ

タンポポ

 桜が春の花木の主役とすれば、春の野の花の代表はタンポポ。昔は食用として若葉を摘む程度の注目度で、俳句などに詠まれるようになったのは江戸時代も後半になってからなのだとか。昔の人々はタンポポをみて「かわいい」より「美味しそう」が先にでたのかもしれませんね。
 10センチほどのストロー状の茎のてっぺんに黄色い花を咲かせる、いわゆるタンポポは関東タンポポで、白花タンポポと呼ばれるクリーム色の花のものは主に西日本に分布しています。
 こうした日本の在来種は、明治時代に日本に入ってきた西洋タンポポに押されて数を減らしています。
 西洋タンポポは花の裏のがくが反り返っているのに対して、在来のものは花に沿ってきれいな半球になっているのが見分けるポイント。見つけたら手折ったりせず、大切にしてあげてください。

花言葉:神のお告げ、真心の愛 など

白花たんぽぽ

白花たんぽぽ

季節の生き物

つばめ

 チュピチュピと騒がしく鳴くツバメは春の渡り鳥の代表選手。寒冷期を暖かい東南アジアで過ごしたツバメたちは、数千キロの道のりを舞い戻って日本でヒナを育てます。
 光沢のあるきれいな黒い体が特徴で、和語のツバクラメも黒い鳥という意味から。中国でも黒を表す玄鳥と書かれます。
 「ツバメが巣作りをすると家が栄える」といって軒先や玄関にツバメが入るのを喜びましたが、構造の変化もあって最近は巣作りに向かない家も増え、ツバメには受難の時代になっています。人のそばに暮らすことでヘビなど外敵から身を守るという戦略を選び、人間社会に馴染んできたツバメたち。この関係にも寂しい変化が訪れてしまっているのかも。

燕親子

真鯛

 上品な白身の美味しさと、縁起のよい赤い体、そしてなにより「めでたい」の語呂合わせから、タイは日本では他の魚とは別格の高級魚となりました。平安時代の法律書『延喜式』でも朝廷への献上品としてリストアップされるなど、縁起物としての歴史は折り紙付き。江戸では毎年初物が将軍様に献上され、京の都では毎日必ず天皇の食卓に「目の下一尺」の立派なタイが運ばれる決まりになっていました。
 一年中祝い膳にのぼりますが、旬は春。産卵を迎える直前、桜の咲く頃のタイがいちばん美味とされ、「桜鯛」の名前で流通します。ただし、あまり食用にしないサクラダイという小魚もいるので、混同にはご注意。
 春のタイ漁として有名なのが、広島県福山市は鞆の浦の「鯛網」。伝統の装束に身を包んだ海の男たちが豪快に網を引き上げる姿は福山の春の名物で、本格的に漁のはじまる初夏5月頃には、鯛網目当ての観光客で港が大賑わいとなります。
真鯛

寄居虫やどかり

 エビやカニなどと同じ甲殻類の仲間ですが、硬い殻を持っていながら念には念…とばかりに巻き貝の殻に身を収め、用心深そうにちょこちょこと磯辺を歩きます。
 貝殻は成長に合わせて、サイズのあったものに何度でもお引越し。巻き貝に入るため、腹部は柔らかくきれいにカールしています。裸のヤドカリをみると、なんとも進化の不思議を感じてなりません。
 一年中磯辺にみられ、釣り人には釣りの餌としてもおなじみ。特に季節感はないようにも思えますが、俳句では春の季語にとられています。また、あまり食用にするイメージはありませんが、昔は茹でたり塩辛にして食べていた土地もあるよう。近縁のタラバガニやヤシガニは大変美味で知られていますから、ヤドカリも推して知るべし、なのかもしれません。ただ、何事も素人の生兵法は危険なもの。実食には必ずプロの判断を仰ぎましょう。
歩くヤドカリ

関連項目

参考文献