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季節の草花と生き物

啓蟄の時期の草花と生き物

啓蟄けいちつ:新暦3月6日頃

 一足先に春の装いをすませ、緑に、ピンクにと大地を染めた草花たち。遅れをとるな!とばかりに、いよいよ虫たちが活動を再開させます。土のあたたかさを全身で感じ取り目を覚ます瞬間は、どれほど気持ちのよいことでしょう。春の舞台の役者もこれで勢ぞろい。開幕まで、秒読みです。

二十四節気:啓蟄について

季節の草花

もも

 日本では3月3日を桃の節句として祝いますが、お隣中国では春節(旧正月)に桃の切り枝を飾ります。桃には魔除けや長寿をもたらすパワーがあると信じられていて、おめでたい席にはもってこいの花とされました。桃から生まれた桃太郎が鬼退治をするのも、桃のもつ不思議な力が表されているのですね。
 江戸中期からは花を楽しむ花モモがブームになり、たくさんの品種が生み出されました。八重咲きの「寒白」「矢口」や、紅白の花を咲き分ける見た目にもおめでたい「源平桃」など品種は200ほどにも。甘く大きな実をつける品種が生み出されたのは、明治時代に入ってからのことでした。
 春、全国の桃の3分の1を生産するフルーツ王国山梨県では、桜ならぬ桃のお花見が最盛期を迎えます。3月下旬頃から、県内各地の桃畑はピンクの霞をたなびかせたような絶景を作り出します。
 笛吹市ではビニールハウス栽培の桃が2月中旬頃から花見頃となり、一足早い「農園花見」として人気を集めています。

花言葉 :天下無敵、気立ての良さ など

桃の花

すみれ

 春の野原を代表する草花で「可憐」という言葉にぴったりの楚々とした愛らしい花を見せてくれます。
日本に自生するスミレはおよそ100種類ほど。真っ先に思い浮かぶのは「スミレ色」とも言われるように濃い紫色のものですが、他にも白や黄色など意外に多様な色合いをもっています。三色スミレともよばれるパンジーの仲間は園芸品種として作り出されたものですが、赤やオレンジ、混色などさらにたくさんの花模様で花壇には欠かせない花になっていますね。
 スミレの名前は、花の形が大工道具の「墨入れ」にそっくりなことから。ぷっくりとふくらんだ花弁後部の袋状の場所に、墨ならぬ蜜をためています。
 花の付け根部分の茎がおじぎをしたように曲がっていますが、ここをひっかけて引っ張り合う相撲遊びというこどもの遊びから「相撲取り草」とも呼ばれました。

花言葉:謙虚、小さな幸せ など

スミレ

カタバミ

 「匍匐茎(ほふくけい)」という横に広がる茎をよく伸ばして、あっという間に増えていく繁殖力旺盛な多年草。敷き詰めたような緑の三つ葉のなかに黄色い小さな花を点々と咲かせます。
 野原で見るにはきれいなカタバミですが、とにかくよく増えるので農家にとってはなかなかの困り者。か弱そうな見た目にくらべてかなり深くまで根を伸ばすので、除草には手がかかります。
 「踏まれたって抜かれたって、簡単には負けないぜ!」
 畑仕事をしていると、かわいいカタバミの花からそんなしたたかな雑草魂が伝わってくるような気さえしてしまいます。
 この繁殖力の強さから「家が絶えない」縁起物として喜ばれ、家紋のモチーフとして多く使われました。葵の御紋で有名な徳川家も、もともとはカタバミを家紋にしていたのだとか。諸説ありますが、まだ松平を名乗っていた家康のご先祖様の時代に、家臣と家紋を交換したのだと言われています。もしも徳川家がカタバミ紋のままだったら、お百姓さんも草取りに困ってしまったかもしれませんね。

花言葉:輝く心、喜び、母の優しさ など

カタバミ

季節の生き物

やまとしじみ

 春、3月頃から姿を見せ始める小さなチョウ。開いても両翼で3センチほどのかわいらしい羽をパタパタと羽ばたかせて花から花へ。この羽を開いた姿が、ちょうどシジミガイの貝殻を開いた様子にみえることからヤマトシジミという名前になりました。ただ、シジミガイにもヤマトシジミという種類がいるので少々ややこしいところ。
 オスの羽の内側は淡いブルーですが、メスの場合はほぼ黒というほどの沈んだ色になります。シジミチョウの仲間は総じてメスの方が地味、オスが派手になるようです。
 小さくてつい見落としがちですが、関東から西の温かい地域ではもっとも普通にみられるチョウ。白地に黒いドット模様の羽の表は、地味なようでなかなか味わい深い渋さをもっています。色味ゆたかな花びらとの取り合わせは、このくらい落ち着いた色合いの方が逆によいのかもしれません。

ヤマトシジミ蝶

ヒキガエル

 寒い冬を土の中で乗り切った彼らは、春になるとのっそり地上にはい出てきます。日本のカエルとしては最大級の種で、10センチから大きいものでは20センチに迫ろうというサイズにまで成長します。動作は鈍く人間めがけて飛びかかってくる、ということはありませんが、そんな大物と夜道でばったり出くわしでもしたら、思わず悲鳴をあげてしまうかも…。
 ガマガエル、イボガエルとも呼ばれるように外見は人間のセンスからはお世辞にもキレイとは言えないようで、有名な「ガマの油売り」の口上では、ガマを鏡張りの箱に入れると、初めて目にした自分の醜い顔に脂汗をタラリタラリ…とまで言われてしまうほど。
 もちろん実際にはそんなことはありませんが、この種のカエルは体表や耳腺という器官から白い有毒の液を分泌します。誤って口にすれば猛烈な苦味と痺れに襲われるものなので、ヒキガエルを見かけても突ついたり、興味本位で触ることは避けましょう。
 産卵期にはお相手を求め、沼や池に大挙して押し寄せる様子も。これもまた人によっては絶叫モノですが、変わらない豊かな春を感じさせてくれる風物詩でもあります。

アズマヒキガエル

青柳あおやぎ

 日本各地の浅い海に育つハマグリに似た二枚貝ですが、いつも貝殻を開けて足を出している様子が「バカが舌を出しているようだ」ということで「バカガイ」という不名誉な名前を付けられてしまいました。
 江戸湾でたくさん採れたため江戸前寿司の定番となり、「バカ」を店に並べるのは嫌だと寿司ネタとしては青柳と呼ばれるように。風味と甘みにほのかな苦味が加わって、こどもには分からない大人のネタとして人気があります。貝柱も美味で、かき揚げにすればこれまた江戸前てんぷらの逸品。衣はサクサク、身はホクホクと崩れる歯ごたえもたまりません。
 千葉県富津市は国内水揚げの8割を占めるという青柳の一大産地です。青柳を用いた郷土料理も多く伝わり、なかでも青柳を薬味といっしょに叩いたなめろうと、これを炙り焼きにした「さんが焼き」が有名。ただ、近年バカガイの漁獲量は減少傾向にあり、天然資源の利用と保護のあり方について意見が交わされています。

アオヤギ

とび

 トビ自体は一年を通じてみられるポピュラーな鳥のため季語にはとられませんが、「鳶の巣」となると春の季語に。立春をすぎ、ゆっくりと暖かみを増すこの頃はトビたちの恋の季節。カップル成立となったトビは巣作りを済ませると、2〜4個の卵を産みます。
 成鳥の大きさはカラスを一回り大きくしたほどで、腐肉や小動物、虫などを食べます。翼をきれいに水平に広げ、うまく気流をつかまえて飛ぶのが得意で、上昇気流にあわせて上空を大きく旋回するトビの姿は、ゆったりうららかなこの季節が一番似合うようにも思えます。
 タカの仲間ですが、行動エリアや食生活が重なるためにカラスとはライバル関係にあり、しばしば両者の空中戦が繰り広げられます。大きさにはやや利のあるトビですが、賢いカラスはタッグを組んで攻めるため、トビの方が苦戦することも多いようです。
 また、気流をつかまえるトビの飛翔法は天候に影響されやすいためか、「トビが高く舞うと風が吹く」「朝からトビが飛ぶと晴れる」など、土地土地の天気予報にもよく登場しています。

トンビ舞う

関連項目

参考文献