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季節の草花と生き物

雨水の時期の草花と生き物

雨水うすい:新暦2月19日頃

 風はまだ冷たいけれど、日向はもう春の暖かさ。一輪、二輪とかぞえられるほどだった花もあっという間に咲き誇り、甘い蜜をお目当てに鳥たちが枝を賑わせます。地面に目を落とせば、そこここに柔らかな緑の気配。水と太陽の恵みを受けて、大地は弾けるように春の装いへと移り変わっていきます。

二十四節気:雨水について

季節の草花

木瓜ぼけ

 中国生まれのバラ科の低木で、日本に自生するクサボケとの交配などでたくさんの品種を生み出しました。花は白と朱が基本ですが、鮮やかな緋色や紅白の斑、淡いピンクなど色とりどり。満開になってもうるささを感じさせない優しい雰囲気は、盆栽や切り花としての空間演出力も抜群です。ふんわりと鼻をくすぐるボケの実は薬用に、また酒に漬け込めば果実酒にも。
 新潟市の秋葉区はボケの生産量で国内トップを走り、市内には現存するボケのほぼ全ての品種150種を見ることができる日本ボケ公園がつくられています。花見頃には祭りも催され、思い思いに咲き誇る美しい花が楽しめます。

花言葉:先駆者、指導者 など

木瓜の花

椿つばき

 中国で「椿」というと別の種類の木のことになります。日本人がこの漢字を輸入したとき、日本で春を代表する花といえば…ということで、本家の意味を離れてツバキの読みを当てたそう。それだけツバキが春を感じるのに欠かせない花だったのでしょうね。
 「花椿」は春の季語になりますが、「寒椿」「冬椿」というと冬の季語。6月頃から花を咲かせるナツツバキもありますが、こちらはツバキとは別種です。
 また、ツバキと同じ頃、よく似た赤い花を咲かせる木にサザンカがあります。一目では見分けがつかないほどですが、迷ったら木の下に注目。花びらを散らすサザンカに対して、ツバキは花ごとポトリと落ちるので、すぐにそれと判別することができます。この花ごと落ちる様子が「首が落ちる」ようだと嫌われ、武家の庭には決して植えられない花木となりました。

花言葉:理想の愛、謙遜、控えめな愛

椿

土筆坊つくしんぼう

 「ツクシ誰の子スギナの子」。ツクシはスギナの胞子茎で、華奢な茎で胞子の詰まった頭を支える姿を筆に見立てて「土筆」としました。春の女神・佐保姫が筆に使うのだという伝承も残ります。
 どこにでも生えて柔らかく、手軽に詰めるツクシは春の味覚としても喜ばれます。詰んだものは水洗いして、丁寧に袴をはずしてアク抜きしたらおひたしや佃煮に。シャクっとした食感と、ほんのり感じる春の香りを楽しみましょう。もう一手間加えて卵とじや、ご飯に混ぜ込んでツクシご飯にしても美味。見た目のわりにアクが強いので、下ごしらえが肝心です。
 江戸の人々にとっては、土筆摘みを名目にピクニックに繰り出す「野掛け」も春のお楽しみでした。ツクシそっちのけで弁当を広げて寛ぐ大人たちに、たっぷりのツクシを抱えた子供たちが即席の訪問販売。そんなのどかな情景がみられたそうです。

花言葉:意外、驚き、向上心 など

顔を出したつくし

ヒヤシンス

 春先に見ごたえのある豪華な花を咲かせるヒヤシンス。目の覚めるような青紫色のものを中心に、ピンク、オレンジ、赤、白、黄と豊かなバリエーションで目を楽しませてくれます。よく書かれる「風信子」は音を当てはめた表記で、和名は「錦百合」。ゴージャスで色も豊富な花の雰囲気がよくあらわされたうまい命名ですね。
 花壇などでの露地植えのほか、水栽培もおなじみです。きれいに咲かせるためには、最初は鉢の水をたっぷり、根が伸びてきたら少しずつ水を減らして根に呼吸をさせてあげましょう。咲き終わった花がらも、まめに取り除いてあげると球根を長持ちさせることができます。

花言葉:悲しみを超えた愛

ヒヤシンス

季節の生き物

雲雀ひばり

 ピーチクパーチク雲雀の子、というように、ヒバリはよく鳴く鳥として親しまれました。気持ちよく晴れた春の日、元気にさえずりながら天を目指して一直線に急上昇、しばらく滞空すると一転電池が切れたように急落下という独特の飛び方をし、それぞれ揚雲雀(あげひばり)、落雲雀といわれて野原に春を呼び込む風物詩として愛されてきました。
 実は揚雲雀は、繁殖期を迎えたオスのヒバリたちによる縄張り宣言。天高くから他のオスの乱入を警戒、監視しているのです。草食系ではヒバリのオスは務まらないようですね。
 海外には、ありもしないことをアレコレ考えるのを冷やかした「空が落ちればヒバリが捕れる」という言い回しがあります。日本では「雲雀が高く舞うと晴れる」ということわざがあり、ヒバリの舞いを天気予報に用いる地域もあったようです。

雲雀の飛翔

越冬トンボ

 体の小さな虫たちにとって、冬の寒さは大変に厳しいもの。クワガタやテントウムシなど樹皮や落ち葉に身を隠し成虫のまま越冬するものもありますが、大抵は卵やサナギの姿で寒さを乗り切ります。
 イトトンボの一種オツネントンボは、成虫で冬を越すとても珍しいトンボです。トンボの仲間で成虫越冬するものは、これを含めわずかに数種類しか確認されていません。オツネンの名は成虫で越年することからきています。
 トンボ類は虫のなかでも最高の飛行のプロフェッショナルで、急発進、急停止、ホバリングやトンボ返りを自在に繰り出すテクニックは、今の人類の技術では再現ができません。細い体で雪の上を飛ぶトンボを目にしたら思わず憐れんでしまいそうですが、どっこい、彼らは空の王者として、たくましく飛び回っているのです。

ホソミオツネントンボ

ホソミオツネントンボ

ホウボウ

 角ばった大きな頭、翼のような広い胸ビレ、海底を歩く6本の脚。インパクトの強い外見を持った魚の変わり種ですが、見た目とは裏腹に味は絶品。冬から初春にかけて旬を迎える白身の高級魚として知られています。
 脚のようにみえるのは胸ビレの一部が変化したもので、これを支えにして海底を這うように移動することが名前の由来とも。胸ビレを広げると、緑の地に鮮やかなブルーのドットと縁取りがほどこされた美しいデザインが現れます。体色もきれいな赤色で、このためおめでたい魚とされて赤ちゃんのお食い初めの膳にも上ります。大きな頭のホウボウを食べて「人の頭になるように」との願いも込められました。
 刺身に美味しいプリプリの身だけでなく、濃厚な肝や歯ごたえのある浮き袋も箸が止まらない絶品。ブイヤベースでは味の決め手として欠かせない具材です。

ホウボウ

関連項目

参考文献