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季節の草花と生き物

白露の時期の草花と生き物

白露はくろ:新暦9月8日頃

春の七草に比べ「食べられない」ことで人気の点で大きく遅れをとっていた感のある秋の七草ですが、全てが伝統ある和菓子になっていることにご注目。江戸時代には庶民の口にも入るようになっています。美しさと季節感を大切にする和菓子の中で息づく秋の七草も楽しみましょう。
二十四節気:白露について

季節の草花

白粉花おしろいばな

夕方に花開くので夕化粧の別名があります。長く白粉の代用にされていたことは有名ですが、なんと外来種。江戸時代の始めにはるばる海を越えてアメリカ原産種が渡来しました。日本人が大好きなラッパ形の鮮やかな花(実際はガク)に、鮮やかな緑と無害な白粉。たちまち人気を呼び、たくさんの種が採れるので、旅人とともに街道を経て全国に広まりました。
花言葉:内気、臆病、遠慮、恥じらい、あなたを想う、信じられない恋 など

DCF 1.0

彼岸花ひがんばな

9月中旬、秋の彼岸に全国で満開を迎えます。こちらも渡来種で、稲作と共に中国から伝わりました。日本の里山によく似合う、美しく悲しげで時に恐ろしくも見えるその姿は心を揺さぶり、千を超える異名・別名があります。最も愛されている別名の曼珠沙華は仏典由来。「天上の花」で「白く柔らかな花」と記されていますが、天上に帰った人を偲ぶ時に寄り添ってくれる赤い花にもまた、確かによく似合う名です。
花言葉:情熱、独立、再会、また会う日を楽しみに、想うはあなた一人、悲しき思い出 など

彼岸花

秋桐あきぎり

「秋に咲く桐に似た花」という意味です。日本固有種で、学名はSalvia nipponica(サルビア・ニッポニカ)。耐寒性の多年草で、若芽は食べることができます。紫色のものが多く、黄色が一番人気がありました。別名は琴柱草(ことじそう)。下に向かってそっと開く花は琴の柱(じ)に似ています。秋の季語、緋衣草(ひごろもそう)は桃色の花のことで、輸入種の真っ赤なサルビアも指します。
花言葉:華やかな青春

秋桐

秋の七草

山上憶良が万葉集の中で詠んだ2首の歌がその由来。1つ目は「秋の野に咲きたる花を指折り、かき数ふれば七種(ななくさ)の花」。「指折りて」ではなく「およびをり」と読ませるところがなんとも素敵です。
続けて詠んだ五七七を2度繰り返す旋頭歌(せどうか)で、ああ美しいとついつい数えてしまった七種を明らかにしています。「萩の花、尾花、葛花、瞿麦の花、姫部志、また藤袴、朝貌の花」。現代語の頭文字を並べ変え「お好きな服は?」と覚えます。
見ごろは種類や地域によって6月下旬~10月と幅があります。全てを一度に見られる名所として有名な埼玉県長瀞では、9/15頃までが見ごろとなっています。
また、秋の七草はその姿かたちを和菓子に変えて楽しむほどに親しまれています。

萩の花はぎのはな

萩6月~10月が見ごろ。日本全国に自生する荒地にも生える強い落葉低木。草冠に秋と書いてハギと読む通りの、日本の秋の名花です。優しげに枝垂れる姿が愛され、万葉集でも最も多く詠まれています。山萩を始めたくさんの種がありますが、根元から新しい芽を次々と出すので芽子や生芽の別字を持ち、木萩などの数種を除いて木には見えません。
花言葉:思案、思い、柔軟な精神
銘菓:おはぎ、練り切り「こぼれ萩」、小萩餅(こはぎもち)、萩の露 など

尾花おばな

ススキすすき(芒、薄)の古名。8月~10月が見ごろ。花の頃は赤っぽく、白くなった種子の頃を見ごろと言います。月見には萩に次いで欠かせないものです。けして華やかではない白ススキの美しさを愛するこの感性こそが日本人らしさ。秋の長雨はススキ前線と同じと言われ、秋雨・秋霖(しゅうりん)の別名に「すすき梅雨」があります。
花言葉:活力、精力、引退、心が通じる、なびく心、悔いのない青春 など
銘菓:焼き鏝でススキの紋様をつけた尾花饅頭、尾花最中 など

葛花くずばな

SONY DSC7月~9月が見ごろ。日本全国に自生する、巻きつく木を曲げてしまうほど強いつる性の多年草です。今の奈良県の国栖(くず)が名産地だったことから読み名が先につき、葛の字が後から当てられました。濃紺紫色が普通種の花色で、甘く強い芳香をもちます。自然変異の白いものは白花葛、淡い桃色のものは鴇色葛と呼ばれ、珍重されました。
花言葉:活力、治癒、芯の強さ など
銘菓:葛きり、草の露他、葛粉菓子は多数。 乾燥させた根は「葛根湯」などの元となる生薬。

瞿麦の花なでしこのはな

なでしこ撫子の古字。6月~9月が見ごろ。野生種でありながら人の手も必要としてきた弱き花で、多数ある撫子属はそれぞれの地で撫でし子とされ、女性や小さな子に譬えて歌に詠まれてきました。山上憶良が見たのはどの撫子だったのでしょう。日本固有種は、薄紫の浜撫子(別名 藤撫子)、赤紫の信濃撫子(別名 深山撫子)の2種のみとされています。
花言葉:色や種類によって異なります。「大胆、純愛、貞節」の3つが撫子属共通。
銘菓:練り切り「撫子」、きんとん製「撫子」 など
リンク:小暑の時期の草花と生き物 河原撫子

姫部志をみなえし

オミナエシ女郎花(おみなえし)の古字。8月~9月が見ごろ。春を鬻ぐ女郎のイメージが強いですが、本来女郎は「若い女集、美しい女性たち」などを指す言葉。使われ始めた当時は「姫よりも現代風で素敵な字」だったというわけです。外国の方に伝える時は、ガールズフラワーあたりの軽い言葉で訳すといいですね。
花言葉:親切、美人、永久、忍耐、はかない恋 など
銘菓: 練り切り「おみなえし」、黄色い求肥で餡を包んだ「おみなえし」 など。他の菓子に黄色い粉や餡を散らすと、女郎花を表現したことになります。

藤袴ふじばかま

藤袴8月~10月が見ごろ。自生種か伝来種か、定かではありません。薄紫色の花を咲かせ、乾燥させると匂いが強まります。桜餅に使う時の桜の葉に似た爽やかで甘い香りがします。匂い袋として着物に忍ばせたり、香として焚きしめたりしました。藤袴と沢鵯(さわひよどり)が交雑した園芸種が広がってしまったため、本種は絶滅が危惧されています。
花言葉:ためらい、優しい思い出
銘菓:玉子入りの皮で餡を巻いた棹菓子「藤袴」。小口切りにして茶席に出します。

朝貌の花あさがおのはな

桔梗「朝貌の花」については、朝顔、昼顔、木槿(むくげ)、桔梗など諸説があります。最も有力なのは、古くから家紋としても愛され、濃紫色が秋の明けの空を思わせる桔梗とする説。桔梗の見ごろは6月~9月です。涼しげな星形の花の美しさは、賢そうなすっきりとした美人によく喩えられますが、ぷっくりとした蕾の可愛らしさも見逃せません。
花言葉:変わらぬ愛、気品、誠実、従順 など
銘菓:練り切り「花桔梗」「桔梗」、干菓子「桔梗」 など

季節の生き物

つばめ

澄ました姿は燕尾服の名でもお馴染み。軒下に巣を作りますが、人を恐れないと言うよりは、天敵であるカラスや猛禽類、蛇などから身を守るための苦肉の策といったところ。人懐こい燕という表現が見当たらないのも納得の賢い鳥です。雌は、繁殖期につがいが存命であろうと若い雄に乗り変えてしまうことがあります。現在は年下の彼氏も意味する「若い燕」の語源です。

ツバメ

雨燕あまつばめ

こちらも夏鳥で、燕よりひとあし早く渡りを終えます。燕とはかなり遠い種なのに姿はそっくり、餌の獲り方や飛び方、巣の作り方までもがそっくりです。同じ行動をしながら進化する中で、結果として姿が似てしまった面白い例です。高山帯や海岸の断崖などで暮らし、色味は茶が強く、燕よりも大型なので、見分けるのは容易です。鳥類最速の種と言われ、中でも針尾雨燕は「最速の鳥」として有名。営巣中も一日の殆どを空中で過ごし、寝ながら飛んでも速いという強者です。

雨燕

露虫つゆむし

稲類は好まず、萩や赤詰草、蓬(よもぎ)、背高泡立草などを食べます。明るい黄緑色の美しい虫で、細く長い脚と小さな顔がなんとも弱々しく「露のように儚い」と愛され、この名が付きました。実際ジャンプは苦手で簡単に捕まってしまい、長い脚が何のためにあるのかは謎です。顔も小さければ顎も小さく、新芽を細々と食べ、日中は花の上をよちよちと歩きながら「ピチ…ピチ…ジ・ジィ…」と小さな声で鳴いています。

ツユムシ

関連項目

参考文献