Column

季節の草花と生き物

冬至の時期の草花と生き物

冬至とうじ:新暦12月22日頃

一年で最も昼の短いこの日。寒さも弥増し、生き物たちは身を寄せ合い体を縮めてじっと長い夜をやりすごします。けれど、冬来たりなば春遠からじ。冬至は恵みの季節への折り返し地点でもあります。
二十四節気:冬至について

季節の草花

千両・万両

千両は草珊瑚ともいい、その名の通り宝石珊瑚のように美しい小粒の赤い実を房状にならせます。万両もよく似た赤い実をつけますが、「千両にも勝る」との意味で名付けられたというだけあってやや大粒。葉の上に実の着くのが千両、下に実を垂らせるのが万両と覚えておけば見分けも簡単。見た目にも名前も華やかなこの植物は、江戸時代頃から新年にかかせない縁起物として定着してきたようです。

同じく赤い実をつけるアリドオシの木とセットで「千両万両有り通し」とのおめでたい語呂合わせで飾られることも。正月にお飾りの大役を果たした実は、そのまま保管し三月に撒くとよく芽を出すといわれます。

花言葉:富貴、富裕、恵まれた才能 など

 

千両

千両

猩々木しょうじょうぼく

猩々木とはやや耳慣れませんが、クリスマスシーズンの定番ポインセチアの和名。猩々は全身を赤い毛に覆われ、大の酒好きで顔まで真っ赤にしているという伝説の生き物のことで、見事な葉の赤さが猩々にみたてられました。もとはメキシコが原産地で、アメリカ合衆国の駐メキシコ公使ポインセットが発見し本国に紹介したのをきっかけに大ヒットしました。ポインセチアの名は彼の名前にちなんでいます。日米どちらでもちょっと面白い名前の由来をもっているのですね。

鉢植えスタイルが定着したのは戦後のことで、野生では簡単に人の背丈を越えるほどに成長します。日本でも南国には自生するものが見られ、宮崎市堀切峠はポインセチアの群生地として知られます。シクラメンとならぶ冬の彩りの代表選手ですが、温暖な地域の原産だけあって寒さが苦手。日光不足も葉落ちの原因となるため、日当たりのよい室内で育てると春先まで葉色を楽しむことができます。

花言葉:祝福、幸運を祈る、清純 など

 

ポインセチア

篝火花かがりびばな

ポインセチアと並び冬場のフラワーショップの店頭を飾る、代表的な冬の花シクラメン。実は秋から春までと意外に花期は長く、季語としては春の花とされます。鉢植えを長く楽しむためには寒い場所に置きましょう。特に夜間暑いのが大の苦手で、葉の変色などを起こしてしまうので要注意。適切に管理をすれば翌年も可憐な花を咲かせてくれます。淡い紫系の花が一般的ですが、流行歌でも有名な白花や、淡緑色のものなど改良によってさまざまな種類がうみだされている品種でもあります。花の数は葉の数に比例しているため、買うときに葉の多い株を選ぶと花も多くつけてくれます。

和名の篝火花は花の様子が篝火のようであることからの命名ですが、もうひとつの和名「豚のまんじゅう」は英語名sow bread(メスブタのパン)をそのまま訳したものとのこと。可憐な花の様子にはちょっとかわいそうな気もします。

花言葉:あこがれ、はにかみ、嫉妬 など

 

シクラメンの花

福寿草

原産地は日本で、旧暦の元日頃から花を咲かせるため元日草、正月ごとに歳を重ねる数え年の時代には献歳花などとよばれました。現代は温室栽培で一年中様々な花を楽しむことができますが、自然の移ろいをそのまま受け入れていた時代には、花の少ない冬期に開花する福寿草は貴重な存在でした。雪を割って健気に花びらを広げる姿は一段と愛でられていたことでしょう。江戸後期には、鳳凰、羽衣、菊八重咲など名前も絢爛な改良品種が200以上も創出されたと記録に残されています。

日本原産ということもあり各地に群生地がありますが、埼玉県秩父山地や山形県喜多方市がとくに有名。喜多方市山都町沼ノ平には最大級の群生地があり、100万ともいわれる株が一斉に咲いた様子は黄金のじゅうたんを敷き詰めたような壮観です。光に敏感で朝陽とともに開花し日が陰ると日中でも花を閉じる習性があるため、鑑賞は冬晴れの天気の良い日が狙い目。

花言葉:永久の幸福、思い出、幸福を招く、祝福

 

雪の中の福寿草

季節の生き物

冬を乗り切るため脂肪を蓄え、まるまると毛並みを膨らませたこの時期の雀たちは「ふくら雀」といわれ、図案化されて折り紙や女性の髻の名前にも使われてきました。さらに「福良雀」と当て字されると、可愛い上に縁起のよいデザインとして大人気となりました。現代同様「カワイイ」と「ハッピー」はお江戸女子の心をもガッチリつかんだよう。可愛い一方で冬場の雀は「寒雀」として、焼鳥にすると「おいしい」食材ともされてきました。今でも冬季限定メニューとして雀を扱う焼鳥屋があります。

雀は早い時代から人間のまわりで生きることを選んだ鳥で、ヘビなど天敵に狙われにくくエサも豊富な環境が生存に有利に働いたのだと考えられています。しかし最近は建築工法の変化で雀が巣作りできる民家が減り、個体数の減少が危惧されています。渡りをしない留鳥ですが、数ヶ月で300キロも移動した例が知られるなど小さな体には大きなパワーが秘められているようです。

 

雀

おなが

キジバト程度の大きさの鳥ですが、体長の半分近くを占めるのは長く美しい尾羽。青みがかった体に黒い帽子をかぶったような頭、そして尾先だけちょこんと白くワンポイントをきめたオシャレな鳥ですが、対照的に「ギューイギューイ」と濁ったような声で鳴きます。

ユーラシア大陸の西端と東端に生息するという不思議な分布を持つ鳥で、日本では関東や長野に多く西日本にはほぼみられません。常に群れで行動し外敵には集団で立ち向かうという絆の強い種で、またカッコウから托卵先として巣を狙われる相手でもあります。実はカッコウがオナガをターゲットにし始めたのは、1970年代というごくごく最近のこと。托卵への対策を持たなかったオナガは一時数を激減させましたが、やがてカッコウの卵を見破る方法を身に付け、巣に近づく親鳥への攻撃も始められました。自然界の生存競争と進化を現在進行形で観察できる存在として、学問的にも注目されています。

 

水辺のオナガ

わかさぎ

湖面も凍りつく厳冬、厚い氷に小さな穴を開けて釣り糸を垂らす。指先にピクピク感じる程度の当たりに竿を上げれば、柳の葉のようなかわいい魚が一匹、二匹――。釣りたてをその場でテンプラにして食べるのがワカサギ釣りの醍醐味ですが、温暖化で氷を張る湖も減り、氷上のワカサギ釣りもなかなか見られない情景になりつつあります。

ワカサギは冷水を好む魚で、主な産地は東北、北陸、茨城の霞ヶ浦などですが、移殖によって現在は日本各地に生息しています。特に霞ヶ浦はワカサギ漁が有名ですが、もとは江戸期に琵琶湖から移植したものだとか。そのため、かつては新参者の意味で魚偏に新しいと書いてワカサギと読ませていましたが、のちに将軍家に献上するようになり「公魚」とあてられるようになったようです。

食べ方はやはり丸ごとのテンプラがベスト。7、8匹も食べれば成人の一日分のカルシウムを摂取することができ、骨粗しょう症や老化防止にも効果のあるヘルシーな調理法です。

 

わかさぎ

 

関連項目

参考文献