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季節の草花と生き物

大雪の時期の草花と生き物

大雪たいせつ:新暦12月7日頃

厳しい冬の到来を迎え、動植物にとっては生きづらい季節のはじまりですが、目を凝らし、耳を澄ませると白銀の世界のなかにも多彩な「生」の息吹を感じることができるでしょう。
二十四節気:大雪について

季節の草花

南天なんてん

晩秋から冬を通して長く果期を楽しむことのできる南天。赤く穂のように垂れる実は、葉の緑との補色関係も美しく、真っ白な雪景色にもよく映えます。お隣の中国では南天を聖竹として尊び、正月には実のついた枝を祭壇のお供えや家の飾りにして新年を祝いました。日本では「南天」という言葉が「難を転ずる」に通じることから、厄除けの庭木として家の鬼門や角地、手洗いのそばなどに植えられました。漢方では咳止めの生薬としても用いられ、その効用は現在でものど飴などでおなじみです。

南天の出荷量日本一を誇る岐阜県郡上市では、毎年12月中旬に「郡上八幡南天まつり」が開催されます。生産農家による手作りイベントですが、杉玉ならぬ南天玉や南天のリース飾りなどが並べられ、知る人ぞ知る冬の名物となっています。この時期、各地の生産地では、出荷をひかえ赤い実をたわわにつけた南天が一面を真っ赤に彩り、見事な景観を作り上げます。
花言葉:私の愛は増すばかり、機知に富む、よき家庭など雪と南天

 

クリスマスローズ

ローズといってもバラ科ではなく、クリスマスの季節に咲き始める花がバラに似ていることから名付けられたもの。地中海沿岸から中欧、コーカサス地方原産で日本に渡ってきたのは明治初年という外来種ですが、俯きがちに花を咲かせる慎ましげな姿は不思議と日本庭園にもよくマッチし、社寺の境内に見かけることも多くあります。

あまり馴染みがありませんが「寒芍薬」という和名も風情を感じさせます。美しい姿とは裏腹にサポニンという有毒成分を含み、品種によっては細かなトゲを持つものもありますので、園芸用に育てる際には注意が必要です。
花言葉:不安を取り除いて、中傷、慰めなどクリスマスローズ

 

蠟梅ろうばい

古くは唐梅(からうめ)ともいわれたように原産は中国で、当地では梅、水仙、山茶花とあわせて冬の画題に映える花「雪中四友(せっちゅうしゆう)」として愛されました。

香りのよい黄色い花を咲かせ、蝋をひいたような光沢のある花弁のさまからその名がついたとも。ひとつひとつの花は小さいもののそれぞれが強く甘い香りを放つため、花期には周囲が芳香につつまれます。英語名Winter Sweetはこの香りから。東洋では視覚、西洋では嗅覚により訴えたのでしょうか。

蝋梅で有名なのが埼玉県宝登山の蝋梅園です。1月下旬から本格的な見頃を迎え、3000本の蝋梅が山腹を黄一色に埋め尽くします。満開の蝋梅越しに見下ろす秩父市街地や山々の景観を堪能したあとは、秩父最古級の歴史を誇る名社・宝登山神社にお参りを。ロープウェイやハイキングコースも整備された訪れやすいスポットです。
花言葉:先見、先導、慈愛などロウバイ

季節の生き物

みみずく

フクロウ科のうち、頭に羽角(うかく)という耳のような特徴的な羽根をもつ種の総称。漢字では木にいる菟(ウサギ)の意で「木菟」と書きますが「耳木菟」とすることもあります。和名でも古くはツクだけでミミズクのことを表したので、細かいことをいえば「耳・木菟」も「ミミ・ヅク」も耳の意味が重複してしまっています。それだけ羽角のインパクトが強かったのでしょう。

ミミズクにまつわる面白い伝承が息づくのが、東京雑司ヶ谷は鬼子母神堂の「すすきみみずく」です。すすきの穂をやわらかく折り込みミミズクの形に整えた素朴な郷土玩具で、母親孝行な娘のため鬼子母神さまが作り方を授けたという心温まる言い伝えが残るすすきみみずく。近年最後の作り手の方が引退し継承が危ぶまれましたが、地域の伝統を愛する地元の人々によって保存会が立ち上げられ、江戸時代から続く歴史が未来に引き継がれています。
ミミズクに限らず、梟、鷲、鷹、隼など猛禽類の多くは冬の季語とされます。ミミズク

 

みやこどり/ゆりかもめ

和歌に登場する「都鳥」は、シベリアなどで繁殖し晩秋から春までの時期を日本ですごす「ユリカモメ」のこととされます。日本では万葉集の時代から歌に詠まれ、白い羽根に赤いくちばしと脚をもつ美しい姿は冬の海岸や河辺の情景として親しまれてきました。鴨川などで観察されるようになったのはここ数十年のことで、それ以前は名前とは裏腹に京の都ではみられない鳥として知られていました。

一方、本物の「ミヤコドリ」は、嘴と脚が赤いものの体色は黒(腹部を除く)に鳥です。

ではなぜ「ユリカモメ」が「都鳥」とされたのか、諸説あるようですが「ミャーオ、ミャーオ」という鳴き声から「ミャーオ鳥」とよばれ、それが訛って「ミヤコ鳥」になったという面白い話もあります。一方関東では古くから江戸湾や隅田川に群をなす姿が愛され、昭和40年には「都民の鳥」に指定されました。コンクリートの埠頭や鉄橋など無機質な景観にも優しい味わいを添えてくれる「ユリカモメ」。名実ともに現代の「都鳥」になった、といえるでしょうか。

ユリカモメとミヤコドリ

むらさきしじみ

青紫色にきらめく美しい翅をもっていますが、大きさはその翅を広げても3~4㎝ばかりのかわいらしいチョウで、日本以外には韓国南部や台湾での生息が確認されています。暖かい地域を好むため西日本に多い種でしたが、近年温暖化の影響からか比較的寒冷な東日本でもよくみられるようになってきました。身近な公園などで簡単にみられるため、近所を散歩がてら青紫の輝きを探すのも楽しいひと時かもしれません。

日本では「蝶」と「蛾」の違いははっきり意識され、蝶は美しいもの、蛾はやや気持ち悪い虫の印象がありますが、世界的には蝶と蛾を区別する文化は多くなく、学術的にも両者の間に明確な差はありません。ムラサキシジミの翅も美しいのは表だけで、裏側は地味な茶色。翅を閉じると素人目には蛾と見分けがつきません。見た目だけで判断するのは人間の身勝手なのかもしれませんね。オオムラサキ

 

関連項目

参考文献