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季節の草花と生き物

小雪の時期の草花と生き物

小雪しょうせつ:新暦11月22日頃

 節気にも「雪」の文字が入り、冬が深まっていく時期。師走になると人間界はなにかとソワソワ落ち着きませんが、いきものたちには無関係。マイペースに冬を乗り切る準備を進めます。優しく花を開いたり、巡り会った恋の相手と身を寄せて温めあったりと、厳寒の季節を前に精一杯もてる命を輝かせています。
二十四節気:小雪について

季節の草花

やつで

 2メートルほどまで大きくなる常緑樹で、丈夫で手がかからないためによく庭木として植えられました。決してメインにはならないものの、和風家屋の庭に見かけるとなんだか安心するような、素朴な優しさのある木です。冬になると咲く花は、まるでクリーム色のポンポン。ふんわりとした味わいで、寒い庭を穏やかに温めてくれるようです。
 葉が大きく裂けることから「八手」といわれますが、実際には葉先の数は7か9で、偶数にはなりません。葉っぱのシルエットが、天狗が空を飛ぶために使うという伝説のアイテム「羽団扇」に見えるということで「天狗の羽団扇」の別名も。大ぶりな葉っぱは、たしかに天狗の大きな手にぴったりな気がしてきます。日本では「8」は縁起のいい数字として好まれ、ヤツデの葉は天狗のイメージも重なって厄除けの力があるともいわれました。

花言葉:親しみ、分別 など

ヤツデの花

たちばな

 橘は日本本土に自生する唯一の柑橘類で、日本人とのお付き合いははるか神話の時代にまでさかのぼります。
 『古事記』のなかで、橘は「非時香果(ときじくのかくのこのみ)」、つまりずっと良い香りを絶やさない木の実と呼ばれています。常緑で常に若々しいタチバナの木は、若さや永遠を象徴するとても縁起のよい木として好まれていました。
 京都御所の正殿、紫宸殿の前には桜と橘が対で植えられ、橘が桜と並ぶ日本の代表的な花木だったことをうかがわせます。花は白い五弁で数センチほどの小さなものですが、やさしい芳香を漂わせ気品あるたたずまい。芸術や文化で功労のあった人に贈られる文化勲章は、この花をモチーフに作られました。
 日本神話の英雄、ヤマトタケルのお妃の名前も弟橘媛(おとたちばなひめ)といいます。自らを犠牲にして夫を助けた悲劇のヒロインで、橘の花の美しいイメージを反映したものだったのでしょうか。

花言葉:追憶

橘花

石蕗つわぶき

 フキによく似た葉をつけていますが、フキよりもツヤツヤと光沢のある常緑性の多年草です。冬場には貴重な緑の下草として庭などに植えられました。晩秋から冬にかけて、ニョキニョキと50センチから1メートル近くにもなる花茎を伸ばして黄色い花を咲かせます。
 菊のようにも見える花は1本の花茎から10、20とまとまって開花し、群生から何本もの花茎が一斉に伸びて花をつけた様子は、黄色い雲が浮かんだようにも見えます。遠目にもよく目立ち、夏の涼しげな緑の姿とはまた違う、にぎやかな景色を冬の庭に作り上げます。
 花の咲いた茎は食べませんが、春の若芽や葉の開く前の茎はやわらかく、フキと同様に食べることができます。煮物、炒め物、てんぷらなどレシピは意外に豊富。

花言葉:困難に負けない、謙譲 など

石蕗

季節の生き物

おしどり

 羽を並べて泳ぐ姿はまさに「おしどり夫婦」。語源も「愛(お)し鳥」からきているといわれます。
 鳥類はそのほとんどがパートナーを決めて交尾する一夫一婦制で、おしどりが並んで泳ぐのも大切なメスにちょっかいを出されないよう、オスが慎重にガードしている結果なのだそう。
 おしどりは水鳥のなかでも羽色の美しい鳥として知られますが、キレイなのはオスのほう。銀杏羽(いちょうば)とよばれる橙(だいだい)色の大きな羽は特に目立ってインパクトがあります。思い羽ともいわれ、普段はパッとしない羽の色が、恋の季節になるとどんどんキレイに変わっていくのです。オスは懸命に飾り立ててアピールし、メスの気をひいているのですね。

オシドリの夫婦

 川で生まれ、海で育ち、やがて川に帰って一生を終えるサケ。淡水と海水では浸透圧が違うため、ふつう川魚を海水に入れると、濃度の高い海水に体の水を奪われて生きることができなくなってしまいます。もともと川魚だったサケは、エラで体内の塩分を調整する機能を進化させ、エサが豊富な海に進出することに成功しました。
 では、広い海に出たあと、どうやって生まれた川に帰るのか。実はサケの回帰にはまだまだナゾが多く、メカニズムはよくわかっていません。生まれ育った川の匂いを覚えていて、それを頼りに遡上するという説が有力ですが、匂いが感じられるのはある程度近くに戻ってからと考えられていて、どうやって川の近くまで戻るのかという方法は未解明。地球の磁気や太陽の方向、海流の向きなど様々な情報を駆使しているのでは…というのが現在わかっている範囲です。
 そこまでして川に戻り、上流へ上流へと遡っても、彼ら彼女らを待っているのは、産卵を果たして命を終えるという運命。サケの産卵は一生に一度だけ。一度でも精子や卵を放ったサケは力を使い果たしてそのまま死んでしまいます。
 ストイックすぎるサケの一生を思うと、刺身の一切れも大切にいただかなくては…という気持ちになってきますね。

鮭の遡上

ボラ

 何年かに一度のペースで「ボラ大量発生」のニュースがテレビを賑わすことがあります。ボラは雑食性で水の汚れにも順応する強い魚なので、都内の河川でも大量に育つことができるようです。
 川を埋め尽くすほど泳いでいる様子をみると何となく食欲も失せてしまいますが、ボラは立派な食用魚で、古くは神様への捧げ物にもされた縁起の良い魚です。関東では、子供のお食い初めにボラを用いるところも。
 また、ブリとならぶ出世魚の代表としても有名で、小さい方からハク、スバシリ、オボコ、イナ、ボラ、トドとたくさんの名前を持っています。砂ごとエサを飲み込むため、夏は少し泥臭いにおいがありますが、旬の冬のボラは甘みが強く、血合いの赤の色合いも美しい高級食材に。卵を乾燥させたものは、これまた高級品として知られるカラスミ。また胃は「ソロバン」といわれて、コリコリとした食感を楽しむ希少な珍味として喜ばれています。

関連項目

参考文献