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季節の草花と生き物

立冬の時期の草花と生き物

立冬りっとう:新暦11月7日頃

 暦の上では冬のスタート。サザンカや水仙など、この時期の花には夏のもののような華々しさはありませんが、そのぶん冬にふさわしい凛とした気品を感じます。冬の渡り鳥もずいぶん増えて、冷たく澄んだ空にはヒィーヒィー、チチチ、グヮグヮといろんな鳴き声が響き交わります。朝晩の冷え込みもなんのその、生きものたちはまだまだ元気いっぱいです。
二十四節気:立冬について

季節の草花

山茶花さざんか

 ツバキ科の常緑樹で、秋から冬にかけてツバキより一回りほど小さな花をつけます。漢字で書くと「山茶花」で、そのまま読めば「さんさか」。言いづらいので次第に「さざんか」となまって定着していきました。ただ、中国では「山茶花」と書くとツバキのことで、サザンカは「茶梅」といいます。ずいぶんややこしいですね。
 確かにツバキとサザンカはよく似ていますが、サザンカの方が花も葉も一回り小さいので、並べてみれば違いはすぐにわかります。また、花の咲く時期もツバキは基本的には春、サザンカは秋〜冬。椿は咲き終えると花がそのままポトリと落ちるのですが、山茶花は花びらが一枚ずつはらはらと落ちます。
 暖かいところを好むサザンカは四国や九州などに多く、山口県萩市が自生の北限といわれます。それより北のものは改良された園芸品種で、江戸時代を通して盛んに生み出されました。この頃に植えられた樹齢数百年という古木が全国のお寺などに残され、今も元気に花を咲かせています。園芸品種は花色もピンクや紅色などとりどりに目を楽しませてくれます。

花言葉:ひたむきな愛、困難に打ち勝つ など

サザンカ

水仙すいせん

 地中海地方が原産で、シルクロードを伝って唐へ、そして平安末期の日本へと伝えられました。
 白い花びらと中心の黄色い冠(副花冠)のコントラストがとても美しい花で、その姿から「金盞銀台(きんせんぎんだい)」、つまり銀の台に乗った金の盞(さかずき)と呼ばれています。また雪の中でも美しく花を開くことから「雪中華」とも、八重咲きのものは特に美しい玉を表す「玉玲瓏(ぎょくれいろう)」とも言われ、とにかく最上級の褒め言葉で賞賛されていたことがわかります。
 11月頃から早咲きのものが開花を始め、見頃は一冬を通して3月頃まで続きます。名前の通り雪の中に咲く自然の様子も美しいですが、生け花としても人気。特にお正月の床の間を飾る祝い花には、気品ある水仙が欠かせませんね。
 長く愛されてきただけに全国に名所がありますが、兵庫県淡路島の水仙郷、福井県の越前海岸、千葉県南房総の鋸南町は水仙の日本三大群生地といわれています。

花言葉:うぬぼれ、自己愛、神秘 など

水仙

茶の花

 中国ではツバキを「山茶」というように、お茶の木は実はツバキの仲間。5枚の白い花びらの中にたくさんの金の蕊(しべ)が並ぶ花の様子もツバキやサザンカを思わせますが、どちらかといえばひっそりとした印象で、それほどの派手さはありません。
 ところがその控えめな印象が「わびさび」の心にマッチして、日本の茶の湯の世界では茶の花もたいへん喜ばれました。松尾芭蕉や与謝蕪村などの俳人も、茶の花を詠んだ句を残しています。常緑の葉の上に白と黄色をコンパクトにまとめた姿は、そのまま上品な和菓子のようにも見えてきます。
 お茶は日本へは最初薬として、伝教大師最澄によって伝えられたといわれています。やがて飲み物としてのお茶が普及するにつれ各地で栽培されるようになりましたが、生け垣などの用途で民家や庭園の植栽にも使われています。

花言葉:純愛、追憶 など

茶の花

季節の生き物・鳥

まひわ

 漢字で書くと「真鶸」で、飼育するとすぐに弱って死んでしまうことから「鶸」となったそう。人間のずいぶん身勝手な命名という気もしますが、日本ではつい100年ほど前まで鳴き声を楽しむために野鳥を飼育する趣味がさかんで、ウグイスやヒヨドリなどさまざまな鳥が愛玩鳥として飼われてきました。マヒワも「ツイーツイー」と、小鳥らしい高く可愛らしい声でさえずります。
 体長は13センチ弱で、スズメでも15センチほどですからずいぶん小さいことがわかります。ちなみに日本で最も小さい鳥は体長10センチのキクイタダキで、次点が10.5センチほどのミソサザイ。小さいながら、どちらもよく通る美しい鳴き声の持ち主です。
 マヒワは立冬の頃に北から渡ってくるため、冬を告げる鳥ともいわれます。このように日本よりも寒い地域で子育てをして、越冬のため、いわば日本に「避寒」しにやってくる渡り鳥を冬鳥といい、逆に日本で子育てをして、冬になるともっと暖かい土地へと渡っていく鳥を夏鳥と呼びます。そして夏冬で居場所を変えるものの、日本列島のなかで北から南へ、山から野へと移動する「国内旅行派」の鳥もいて、こちらは漂鳥(ひょうちょう)と呼ばれます。

マヒワのぶら下がり

マヒワのぶら下がり

ひらめ

 稚魚のうちは普通の魚のように体の両側に目がついていますが、成長するにつれて少しずつ右目が上へ上へと移動し、やがて頭のてっぺんを乗り越えて両目が体の左側に並んでしまいます。こうして「左ヒラメの右カレイ」といわれるお馴染みの姿になるのですが、カレイのなかでもヌマガレイは目が左寄りのヒラメタイプだったり、実際にどちらに寄るかは個体によってまちまちだったりと、必ずしも「左ヒラメの右カレイ」が絶対のルールではないようです。
 一番見分けやすいのは口の構造で、獰猛なヒラメは口が大きく歯も鋭い一方、ゴカイなどを食べるカレイはおちょぼ口に。なかなかじっくり観察する機会もありませんが、一緒に買って並べてみると意外な違いが発見できるかもしれませんね。
 ヒラメの旬は秋から厳寒の2月頃。年中高い魚ですが、脂ののった大型の寒ヒラメは特に高値でやりとりされます。また、ヒラメといえばやっぱり縁側。左右のヒレもとの部分はどうやっても1尾から4貫分ほどしか取れないため、寿司ネタの最高級品となります。回転寿司などでお手頃価格で食べられるものは、カレイ類など似た魚からの代用品です。

ヒラメ

蝦夷鹿えぞじか

 北海道に生息する日本では最も大きいシカで、頭から尻尾までの体長が2メートルを超える大物もいるほど。動物は寒いところに住むものほど体を大きくして熱を逃さないようにする、という進化の法則があり、エゾシカも本州のニホンジカより一周り以上大きく育つようになっていきました。
 北海道の先住民族アイヌの人々は、エゾシカと鮭は神様が人間に与えてくれた大切な食料だと考えて、長い間狩りを行ってきました。現在では地域差はありますが、10月から3月頃がエゾシカの猟期とされています。
 いま、北海道では毎月第4火曜日を「シカ(4火)の日」に制定して、エゾシカ肉消費の大キャンペーンを行っています。というのも、ここ数 十年でさまざまな理由からエゾシカが増えすぎてしまい、その駆除と有効利用に乗り出したというわけです。
 シカはイノシシなどほかのジビエにくらべても圧倒的に脂肪分が少なく、また鉄分が多いことから女性にオススメの肉として売り出されています。ロースはステーキやジンギスカン、スジ肉なら煮込み料理にと意外と用途も広く、クセも少ないエゾシカ肉はジビエブームにも乗ってじわりと人気が広がっています。

エゾジカ

関連項目

参考文献