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季節の草花と生き物

霜降の時期の草花と生き物

霜降そうこう:新暦10月23日頃

 ちらほらと冷たい雨が大地を濡らし霜が降り始めるようになると、生き物にとっては厳しい季節がやってきます。山のなかの鳥や獣は、今のうちに森の恵みをたっぷり食べて冬に備えます。海の中でも魚たちが体に脂を蓄えてせっせと冬支度。そんな魚を狙う生き物もまた様々で、自然は静寂の冬を目の前に賑やかなドラマを繰り広げます。
二十四節気:霜降について

季節の草花

紫式部

 東アジアに広く分布する落葉性低木。2〜3メートルの高さまで育ち、ぶどうをミニチュアにしたような美しい紫色の実をつけます。赤い実の多い秋の木々のなか存在感を放つムラサキシキブは、植栽としてだけでなく生花に使っても独自の見栄え。緑の葉の付け根に紫の実というコントラストも鮮やかに秋の世界を彩ります。
 名前の由来はもちろん、紫の実と『源氏物語』の作者・紫式部をかけたもの。ムラサキシキブの近縁種には同じく小さな紫の実をつけるコムラサキがありますが、こちらも平安の女流歌人・小式部内侍にかけてコシキブと呼ばれています。
花言葉:愛され上手、聡明 など

ムラサキシキブ

弁慶草

 肉厚の葉が特徴的なベンケイソウは、とても生命力の強い草花。切っても切っても枯れない力強さから武蔵坊弁慶にあやかって名前がつけられたといわれ、さらに古くは「活き草」といわれていました。観葉植物としてはセダムの名前でもおなじみ。手がかからず枯れにくいので、お部屋の緑のワンポイントとしてお手頃な植物です。
 秋には淡い紅色の小さな花をふさふさと咲かせ、また違った魅力を添えてくれます。葉には膿を吸収する効果があると信じられていて、軽くあぶった葉を傷口やものもらい化膿した虫刺されなどにあてると治りが早くなるといわれます。乾燥させたベンケイソウを煎じて薬用に飲むこともありました。
花言葉:穏やか、静寂 など

大弁慶草

水引

 タデ科の多年草で、すーっと直立した端正な茎に順序良く小さな花がつきます。この花は上半分が赤、下半分は白というなんとも縁起の良い配色で、遠目にみるとまさに紅白の水引を連想させます。日当たりの強い場所よりも暗がりの物陰や木陰などを好むのですが、花のついた穂は長いものでは40センチにもなるので、ひとつひとつは小さな花もよく目立ちます。楚々とした立ち姿は和風建築によく似合い、茶室の庭などにも好んで植えられて、通人のワビサビの心を満足させてきました。
 紅白混色のものを特に「御所水引」といって、白一色の花をつけるものを「銀水引」と呼ぶことも。つつましい姿から気品があふれる、オトナの草花といったところですね。
花言葉:祝い事、祭礼、寿 など

ミズヒキ

季節の生き物・鳥

蓑虫みのむし

 田舎の秋の風物詩、ともいえるほのぼのした風情を感じさせてくれるミノムシ。ミノガの幼虫で、木の葉や小枝などを手際よく縫い合わせて自分専用のミノを作り上げます。手近にあるものならなんでもミノの材料にしてしまう仕立て上手で、毛糸くずでカラフルなミノを作らせる実験もおなじみでした。またミノガの糸はとても丈夫で破れにくいため、財布などの材料にも使われました。数十匹のミノからつくられたミノムシ財布は、金運のお守りとしても珍重される高級品です。
 ところが、どこにでもいたミノムシですが、30年ほど前日本に入ってきた寄生性のハエに狙われ現在その数は激減しています。当たり前のようにあったものほど、なくした時の寂しさは大きいもの。またひとつ、美しい日本の風景が失われてしまうのかもしれません。

蓑虫

ひよどり

 白、黒、グレーに茶色と落ち着いた色味のヒヨドリですが、「ヒーヨ、ヒーヨ」と元気にさえずり、波打つように群れで飛び回るため見分けるのは簡単。独特の波のような飛び方は、すこし羽ばたいて上昇すると一休みして滑空し…という上昇下降を繰り返すためで、体力を節約して飛ぶための賢い方法です。秋になると数百羽の群れになり、暖かい地域を目指して飛び立っていきますが、入れ替わるようにさらに北にいたムクドリが南下してきたりで、一年中みられる野鳥となっています。
 体長は30センチほどとやや大ぶりで、庭に果物を置けばすぐにつつきにくるほどなんでもない鳥ですが、実は日本列島周辺にしか生息しないため、海外の野鳥愛好家には「珍しい鳥」として大人気だとか。小鳥の頃から飼いならすとよく人に慣れ、飼い主を見分けて懐くことから平安貴族はヒヨドリをペットとして可愛がったそうです。

ひよどり

かわはぎ

 カワハギは海水魚のなかでも特においしい魚として人気で、フグより美味い、という声も少なくないほど。旬を迎える秋に活魚が出回るようになると、お値段もぐんとアップします。甘みの強い白身もさることながら、最も珍重されるのは体重の2割にもなるという立派な肝。新鮮な活魚ならば生でも食べられます。生食、茹でのどちらでも肝を醤油に溶いて刺身につけたり、溶いた肝を身に和えたりしていただきますが、その旨味はあん肝にも負けません。
 フグのような硬い前歯でエビやカニ、貝などの硬い殻もバリバリと噛み砕いてしまう貪欲な食欲の持ち主で、おいしいエサをたっぷりたべて肝を太らせていくわけです。
 皮は硬くて丈夫ですが、「カワハギ」の名の由来のとおり、包丁で切り込みをいれると服を脱がせるように簡単に剥ぐことができます。鮫皮のような丈夫な皮の様子から英語ではfilefish=やすりの魚といわれます。

カワハギ

関連項目

参考文献