二十四節気
小雪
冷ゆるが故に雨も雪と也てくだるが故也
気温も下がり「雨も雪と也て」地上に舞い降りる季節がやってきました。雪は、地上の気温が3℃、上空1500メートル付近がマイナス6℃程度で降り始めるとされています。気象庁による初雪の定義は「寒気候がきて初めて降る雪」ということで、雨まじりのみぞれでも初雪とすることになっています。年々の寒暖のちがいによって初雪が見られる日はまちまちですが、北海道では10月から、豪雪地帯と呼ばれる北信越地方でも11月には観測されるのが平均的。東京では「小雪」の頃の雪は珍しく、年が明けてようやく初雪を迎えることも珍しくありません。
七十二候
虹蔵不見
雨が雪に変わり、陽の光も弱まる冬は虹がでにくい季節。はっきりと虹色をあらわさず、ぼんやりと見える力のない虹を霧虹、白虹などと言います。虹がみられなくなる一方で、冬にはダイヤモンドダストに太陽が反射して起こる「幻日」や「太陽柱」といった神秘的な気象現象を目にすることも。
朔風払葉
朔は北の方角のことで、朔風=北風。北風が吹いて木の葉が落ちる頃。「木の葉時雨」とは、木の葉の落ちる音を時雨の音と例えた言葉。実際に落ちる様子ではなく、サラサラと舞う木の葉の擦れる音から連想したもので、聴覚から情景を想像させる奥ゆかしく美しい言葉です。
橘始黄
橘の実が黄色く色づき始める頃。緑の葉を絶やさない橘の木に黄色い実がたわわに実る姿は、色彩のコントラストもよくとても賑やかに映えるもの。橘は常世の国(不老不死の世界)からもたらされたものとも考えられて、年末から新年を迎える季節にもぴったりの縁起のよい景色となりました。
季節のことば
寒昴
冬の空に、6つほどの星が集まって輝くすばる星。六連星(むつらぼし)とも呼ばれ、ひとつひとつの星でなく、星のまとまりに対して付けられた名前です。このように星が集まっている場所は「星団」といわれ、すばるも天文ファンには「プレアデス星団」という名前のほうがメジャーかもしれません。
プレアデスはギリシャ神話に登場する7人姉妹の女神の名前で、ヨーロッパではプレアデス星団は7つ星と考えられていました。このように星の数が変わるのは、実際のすばる(プレアデス星団)が大小さまざまな数多くの星から構成されているためです。
肉眼で見える星は6〜7個なのですが、本当の数は実に数百個!夜空の宝石箱といったきらびやかさで、その美しさは清少納言も『枕草子』のなかで「星はすばる」と第一に賞賛しています。冬の澄んだ夜空に青白く輝くすばるは、大昔から人類のイマジネーションを刺激してきました。
ハワイにある日本の国立天文台は、この星の名をとってすばる天文台と名付けられました。世界最大級の反射望遠鏡で、100億光年以上離れた銀河をいくつも発見し、宇宙の謎に迫り続けています。
懐炉
寒い冬、こたつでぬくぬくしていられるうちはよいけれど、いざ外出となったときどう体を温めようか…人類が抱え続けてきた大きな悩み、冬場の大問題ですね。現在でこそ使い捨てカイロが普及し、こするだけですぐに暖をとることができるようになりましたが、そこに至るまでの懐炉の歴史は人類の工夫の歴史でもありました。
江戸時代までは、丸くて滑らかな石を温め、布にくるんだりして持ち運ぶ「温石(おんじゃく)」がもっとも一般的でした。この頃には、木炭などから作った懐炉灰(かいろばい)をブリキ容器に詰めてゆっくりと燃やす懐炉も作られます。大正時代になると、揮発油を加熱させる白金懐炉(ハッキンカイロ)が登場。そして昭和の末頃になって、鉄の粉を酸化させて発熱する、火を使わない安全でコンパクトな使い捨てカイロが開発され、爆発的な大ヒットとなりました。
懐炉に限らず、自動販売機からとりだした缶コーヒー、ゴロゴロしているネコのお腹…冬はとにかく、手頃な暖かいものに癒されてしまいますね。
甘蔗刈り
甘蔗(かんしょ)はサトウキビのこと。12月頃になると、沖縄では身の丈以上に伸びたサトウキビの収穫が始まります。製糖工場もノンストップで稼働を始め、その昔は雨の日も風の日も休まず鎌をふり続けなければならない大変な重労働でした。
現在は機械化も進められていますが、変わらず人手頼りのところもあり、シーズンにはきび刈りのアルバイト募集もさかん。体育会系の男子学生でも、慣れないと1日でクタクタになってしまうのだとか。
苦労して刈り取ったサトウキビは工場に運ばれ、搾った汁は砂糖や糖蜜の原料に。葉っぱはまとめて堆肥になり、搾りカスも乾燥させて燃料としてリサイクルされます。甘蔗刈りは冬から春先まで続き、沖縄ならではの風物詩となっています。
この時期の風習や催し
出雲大社神在祭
旧暦10月は「神無月」といわれますが、出雲でだけは特別に「神在月」。10月は全国の神様が出雲に集合して、自分の氏子の縁組を相談しあう月と言われていました。そのため神様が留守になるので神無月なのですが、出雲では逆に神が在る月というわけです。
全国の神様が出雲の稲佐の浜に到着する旧暦10月10日、出雲の神職たちは総出で浜に出向き、神事を行って神様をお迎えします。それから一週間かけて神々は縁談の取り決めをするというわけですが、わずか7日で日本中の縁組をするというのだからさすが「神業」といったところでしょうか。
17日には「神等去出(からさで)」という祭りがあり、「お立ち、お立ちー」の掛け声のなか、出雲大社に宿泊していた神様たちの帰国お見送りが行われます。
出雲大社のほか、佐多大社をはじめ出雲各地の古社で同様の神事が行われ、出雲の神在月は過ぎてゆきます。
ひょうたん祭り
大分県豊後大野市の柴山神社で12月初頭に行われる奇祭。
大わらじを履き、お酒の入った大ひょうたんを腰から下げた「ひょうたん様」が人々にそのお酒を振舞って歩くというたいへんユニークな神事です。ひょうたん様に扮するのは、氏子のなかでもお酒に強い元気な長老という決まりで、ありがたい御神酒を授かろうと、ひょうたん様の行く先は人、人、人の大混雑。
ただ、朝からたっぷりお酒を飲んですっかり酔っ払っているひょうたん様は、自分も歩くのがやっと。周りの人がどうにかこうにか押して引いて、1キロほどの道のりを2時間もかけて練り歩くのだとか。こんな不思議なお祭りですが、これが800年も続いているというから、日本の文化の面白さ、奥深さを思い知らされます。
酉の市
鷲神社の祭礼で、毎年11月の酉の日、屋根までびっしり熊手を並べた出店が境内狭しと軒をつらねます。12日に一度めぐってくる酉の日は、一回目が一の酉、二回目が二の酉と数えられ、三回目の酉の日、三の酉まである年は火事が多いと言い伝えられて火の用心が心がけられました。
煌々と電球が灯ってまぶしいほどの境内では、熊手が買われるたびに景気のいい三三七拍子が響き渡ります。一年ごとに少しずつ大きな熊手に買い換えていくと商売繁盛といわれ、浅草の鷲神社は酉の市の数日で数十万の参拝者を集めるともいうほどに賑わいます。
浅草のほかにも、新宿の花園神社、府中の大国魂神社など東京都下の神社には大きな酉の市が立ち、それぞれに大変な活況に。不況といわれるご時世だからこそ、神様へのお願いはますます盛んになるのでしょうか。
秩父夜祭
300年の歴史をもつ、秩父神社の例大祭。市内を曳き回される4基の屋台と2基の笠鉾は極彩色の豪華絢爛な作りで、「動く陽明門」ともいわれるほど。もちろん昼間に見ても素晴らしいものですが、「夜祭」の名のとおり、ぼんぼりを灯した夜はさらに美しく目を奪われる姿になります。
冬には珍しい大規模な花火も有名で、澄んだ冬空に咲く花火は夏よりもクリアできれいだという人も。数千発の花火のなかでも、スターマインは夜祭の名物として特に有名です。
秩父神社は秩父一帯の総鎮守の神社で、御祭神は長く女神さまと言い伝えられていました。この女神さまが年に一度、相思相愛の龍神様とデートするのが、秩父夜祭の晩なのだとか。神様のデートを彩る屋台と花火…とてもロマンチックですね。
季節の食・野菜・魚
白菜
寒い季節の鍋ものに欠かせない野菜といえば、真っ先に思い浮かぶのが白菜。寄せ鍋、常夜鍋、それにキムチ鍋にも白菜は不可欠。肉や魚といった主役たちを引き立てながら、自分自身もたっぷり旨みを吸い上げます。さながら、主役の座を脅やかす鍋のなかの実力者といったところでしょうか。
白菜にはビタミンCが多く、免疫力アップに効果あり。ミネラルも多く含みますが、とくにカリウムには利尿作用があって塩分排出を促します。そういう面でも、鍋に白菜は合理的な選択なのですね。
英語でchinese cabbegeというように、中国では紀元前から栽培が始まっていて数多くの種類が生み出されました。それだけ品種の維持が難しいという面もあり、本格的な白菜の栽培が成功したのは、日本では明治末期以降のことでした。現在では、小ぶりな食べきりサイズのミニ白菜、サラダのワンポイントになるオレンジ色の白菜、玉にならない唐人菜、べか菜といった品種が流通しています。
かます
ツンと口をとがらせた面白い顔の魚。日本各地で水揚げされますが、量は南の方が多くなります。たっぷりと脂ののる秋から冬が旬。塩焼きにすると最高に美味で、いくらでもご飯がすすんでしまうため「カマスの一升飯」なんて言葉も生まれました。ちょっと多めに塩を振って、焦げすぎたかな、と思うくらいまでじっくりと焼いたのがまた、たまらなく美味く感じるもの。新鮮であれば、もちろん刺身にしても絶品です。
カマスは大群になって泳ぐため、ダイビングの目標にされることもあります。世界には目の前が壁のようになるほどのカマスの大群がみられるスポットも。ただ、カマスのなかでも最大級のオニカマスには鋭い牙があり、噛まれると深手になるため注意が必要です。
林檎
原産地は中央アジアで、栽培は8000年ほど前にはあったとされる人類最古の栽培果樹の一種です。その証拠に、聖書のなかでアダムとイブが食べた禁断の果実がリンゴとされていたり、北欧神話では不老不死をもたらす黄金のリンゴが登場したりと、神話や古い物語の中にもたびたび登場しています。
神々の食べ物とされていたように、リンゴは栄養価の高い健康食材で、ヨーロッパには「1日1個のりんごが医者を遠ざける」ということわざがあるほど。ビタミンや鉄などの栄養のほか食物繊維も豊富で、しかも中心には甘い蜜がたっぷり。さらに、ポリフェノールの抗酸化作用で老化防止の効果もあると期待されています。神様が人間に渡したくなかった訳もわかりますね。
寒暖の差が大きいほど甘く蜜をつけ、国内のリ二大生産地も寒冷な青森県と長野県となっています。シャキッとした歯ごたえも魅力ですが、長く置いておくと水分が抜けてスカスカになってしまいます。保存には低温高湿状態がベスト。ラップでくるんで冷蔵庫に入れるとよいでしょう。
- 新版 美麗写真でつづる 日本の七十二候 晋遊舎
- 二十四節気と七十二候の季節手帖 山下 景子著 成美堂出版