小暑
陽射しは日に日に強くなり、気温が高まっていきます。雷雨とやかん照りを繰り返し、豪雨をあとから連れてくる恐ろしい空雷様(かららいさま)がおへそを取りに地上へ下りてきます。空雷様を何度かやリ過ごすと梅雨が明け、真夏が駈け足でやってきます。
二十四節気:小暑について
季節の草花
蓮
泥の中からこぼれるように咲き出でる美しい大輪の花は、仏教では「お釈迦様が生まれ出でてすぐに歩き出したその足跡に咲いた」とされています。早朝に開き、昼ごろにそっと閉じ、午後と夜を過ごす蓮の花。その姿は瞑想する人のようであり、仏教の他ヒンドゥー教や吉祥天でも神聖なものとされています。蓮の葉は独特な構造によりけして「濡れる」ということがありません。水は必ず玉となり、汚れを落としながら転がり落ちるので、どんな泥沼でも艶々と美しいままなのです。
花言葉:神聖、沈着、清らかな心、雄弁 など
朝顔
涼やかな色合いと薄い花びら、天然のすだれとなるしなやかな蔓と大きな葉。夏休みの観察日記でもおなじみの朝顔は、遣唐使が種を高価な薬として持ち帰ったのがその始まりとされています。薬としては適量の判断が難しいものだったので、江戸時代には花の美しさを愛でるものとなりました。江戸時代に日本で独自の発展を遂げた「古典園芸植物」と呼ばれるものの1つで品種改良や販売は大ブームとなり、入谷名物朝顔市はその名残です。満開の時期が旧暦の七夕と一致するため、日本の花言葉には織姫と彦星の恋模様を連想させるものが並んでいます。
花言葉:愛情、愛情の絆、固い約束、はかない恋
河原撫子(撫子)
カワラナデシコ、ナデシコ、ヤマトナデシコ、全て同じ花を指します。万葉集・枕草子・徒然草・源氏物語など時を超えて愛される文芸作品に幾度も登場し、古い時代には単にナデシコと呼ばれていました。野生でありながら人の手を必要とする「撫でる手が必要な子」なのが心を揺さぶったのですね。ヤマトナデシコの記載は古今和歌集が最初とされ、よく似た中国伝来の唐撫子と区別したためと思われます。ヤマトナデシコと呼ぶ場合、花言葉は可憐・貞節。秋の七草にも名を連ねる名花ですが、本州以南に広く分布する自生種としては絶滅が危惧される地域が増えています。
花言葉:純愛・無邪気・純粋な愛・思慕・貞節・女性の美・才能・大胆・快活 など
季節の生き物
白鼬
夏山シーズン、運がよければ恋の季節を迎えた「山の妖精」が元気に走り回る姿が見られます。ホンドオコジョが20cm程度、エゾオコジョでも24cm程度。イタチ科の中では小さく、丸い短めな顔とすらりとした体躯のバランスがなんとも可愛らしいのですが、完全な肉食で人に対しては気の荒い一面を見せます。見つけたら、遠くからそっと望遠レンズで狙いましょう。夏毛は茶色、冬毛は白です。輸入ミンクが野生化した地域では絶滅が危惧されています。
日本蛇舅母
漢検1級にも出題された「蛇舅母」は日本固有種。金蛇・草蜥とも書きます。頭と目が大きめで可愛らしい顔をしています。人に噛み付いたりはしない大人しい生き物で、長い尻尾でバランスをとりながらいろんな虫を食べてくれます。家の中に入ってきてもそっとしておけば、こちらに向かってくることもなく天然虫取りとして頑張ってくれますよ。東京と千葉では絶滅が危惧されていますので、繁殖期の夏は捕まえないであげてください。
大和玉虫
光の干渉によって色調変化する染色や織色、転じて、ころころと変わったりはっきりと判別しかねる物言いや状況を指す「玉虫色」の語源となった美しい甲虫はカブトムシ亜種。その横顔は、カブトムシよりもバッタに似た男らしさがあります。単純にタマムシと言った場合にはヤマトタマムシを指します。天敵となる鳥類は金属的な輝きを嫌うので、カラス以外に捕食されることはほとんどありません。警戒心が強く、人や犬や猫に気づかれた時は金属欠片のようにじっとして難が去るのを待とうとします。
鳧
田んぼの敵、ジャンボタニシをバクバクと食べてくれる益鳥。7月は繁殖期の後期にあたります。畑の小さな神様ミミズや作物もたまに食べてしまいますが、ご愛嬌として赦される程度だそうです。高い声でケリーケリケリッと鳴き、夜も活動します。落ち着いた和の配色に鮮やかな黄の足と嘴、赤褐色の瞳の指し色が映える可愛い鳥ですが、気性は少々荒く人も敵とみなすので「けりをつける」を「鳧をつける」と書くことも。通年同じところで生きる留鳥で、昔は東北北部など一定区域の固有種とされ絶滅が危惧されていますが、逆に本州全土や九州北部まで育成の場を広げていることが確認されています。自分に適した土地を探して生きる賢い鳥なのです。
- 新版 美麗写真でつづる 日本の七十二候 晋遊舎
- 二十四節気と七十二候の季節手帖 山下 景子著 成美堂出版