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季節の草花と生き物

大寒の時期の草花と生き物

大寒だいかん:新暦1月20日頃

 一年で最も寒いとされるこの季節を生き物たちは健気に、そしてたくましく乗り切っています。植物の中には早くもつぼみをほころばせ、芽吹きを迎えるものも。待ち遠しい春を目の前に精一杯いのちをかがやかせる生き物たちの姿を見ていきましょう。

二十四節気:大寒について

季節の草花

ひいらぎ

 もとは「疼木」と書いてひいらぎと読みました。「疼(ひいら)ぐ」はヒリヒリ痛むというような意味で、一番の特徴である葉のトゲからとられた名前です。同じくトゲのあるサイカチとともに防犯用の庭木として好まれましたが、ヒイラギには泥棒以外にもうひとつ、鬼を除ける力もあると信じられていました。
 現在、節分の鬼追いといえば豆まきが一般的ですが、かつてはイワシの頭を挿したヒイラギの枝を門口に飾る光景もよくみられました。イワシの放つ悪臭と、鬼の目を突くヒイラギの葉で鬼を退散させようというおまじないです。豆が飛び道具としたら、イワシの頭は化学兵器、ヒイラギは有刺鉄線というところでしょうか。ここまでされたらさすがの鬼も戦意喪失しそうなもの。昔の人が鬼や疫神を恐れた様子がよくわかる風俗です。
 ヒイラギ自身は初冬の頃に、良い香りを放つ白い小花を咲かせます。

 花言葉:用心深さ、先見の明 など

柊の花

満作まんさく

 本州から九州にかけて広くみられる日本の固有種で、春先、他の花に先駆けて黄色いリボン飾りのようなユニークな花を咲かせます。花名の由来は一番乗りで「まず咲く」ことからとも、枝いっぱいに開く花のめでたさが「豊年満作」を連想させるからとも。「金縷梅」の字をあてることもあり、花色の淡い種類は特に「銀縷梅」と呼ばれます。ほかにも白い花のトキワマンサク、赤い花をつけるアカバナトキワマンサクという近縁種もあり、豊年満作、金銀、紅白と春の訪れを寿ぐにふさわしいお目出度尽くしの花木です。
 一方海外での同科の木の呼び名はちょっと恐ろしい「魔女の枝」。枝を使って占いをしたからだそうですが、日本でもマンサクの花の咲き具合で一年の豊作を占う地域もありました。

 花言葉:霊感、ひらめき など

満作の花

セツブンソウ

 キンポウゲ科の多年草で、節分のころに白い花を咲かせます。実際は花に見える白い部分は萼片という部位で、五枚のものが一般的ですが六枚、七枚だったり八重咲き様のものもあったりとバリエーション豊富。中心部に黄色や紫のカラフルな彩りも添えられて、小さいながら接写にも堪えられる美しい植物です。
 荒地を好み他の草が生えないような場所にも力強く根を伸ばすのですが、逆に土地が肥え他の草花が増えてくると生えにくいという面白い性格です。日本固有種で、世界的にも近縁種もわずか、しかも白い萼片をつけるのは日本のセツブンソウだけという貴重な種ですが、現在はその美しさによる乱獲や自生地の開発によって希少種となってしまっています。
 日本最大級のセツブンソウ自生地を擁するのが埼玉県秩父の小鹿野町で、5,000平米にもなるエリアに白いじゅうたんを広げたような景観をつくりあげます。思わず手を伸ばしたくなりますが、そこは我慢。次の年もまた同じ景色が眺められるよう大切に護っていきましょう。

 花言葉:気品、光輝 など

セツブンソウ

季節の生き物

カワセミ

 大きな頭に4センチにもなる立派なくちばしを備えていますが、体長はおよそスズメほど。ずいぶんずんぐりむっくりな特徴的な体型なのですが、それにもまして目を奪われるのは「翡翠」の名に恥じない全身の羽の美しさ。輝くような鮮やかな青とオレンジの羽毛を身にまとい、「飛ぶ宝石」とも呼ばれています。
 カワセミは夏の季語として扱われますが、水辺であれば都内でも年中みることができる留鳥です。そして観察や撮影に一番向いているのは、木の葉などの遮蔽物が少ない冬場だといわれています。一面の銀世界に紺碧のカワセミが一羽…そんな場面に出会うチャンスも少なくないかもしれません。
 木の枝から急降下して泳ぐ獲物を捕らえるハンティングの名手でもあり、魚虎、魚師など勇ましい別名も持っています。

カワセミ飛翔

ジョウビタキ

 サハリンや中国北部などから越冬にやってくる代表的な冬鳥で、本州はじめ各地で広く観察されます。尻尾をピコピコと上下させる特徴的な動きはかわいらしいものですが、容姿に似合わずとても縄張り意識の強い鳥として知られ、オスもメスも繁殖期以外は一匹オオカミで自分の縄張りを守ります。そのポリシーは鏡に映った自分の姿にまで威嚇するというほどの徹底ぶり。なわばりの主張に「カッカッ」と石を打ち合わせたような鳴き声を出すことから火打ち石が連想され、「火焚き鳥」となったのが名前の由来とされます。
 「じょう」の方は漢字では「尉」と書き、おじいさんを表します。オスの白い頭部の様子から名付けられました。学名のRhoenicurus auroreus は暁の女神オーロラのような、との意でこちらは鮮やかな体のオレンジ色に着目したもの。カラフルで見応えのあるジョウビタキの面目躍如といった命名です。

ジョウビタキ

ズワイガニ

 旅番組ではこの時期「温泉、和牛、カニしゃぶ」が三点セットのように取り上げられて日本人の旅心と胃袋をくすぐっていますが、ここで食べられているカニの多くがズワイガニです。
 越前ガニという別名からもわかるように日本海側でも北陸が産地として名高く、11月頭から3月下旬の漁期には多くの漁船が港を行き来します。実は「ズワイガニ」として食用されるものは全てがオスで、メスのズワイガニは大きさもオスの半分ほどで一見同じ種類とは思えないほどだとか。コウバコガニ、セイコガニなどと呼ばれるメスは小さいながら香りが良く、脚の身よりもかぶりついて味噌を味わうのが正解。紅ズワイという種類もありますが、こちらは全くの別種で、身に水気が多く味が薄れるということでややお手頃な価格でやりとりされています。また、ズワイとならぶカニ界の両雄にタラバガニがいますが、こちらは厳密にはカニではなく、足が8本のヤドカリなどの仲間になります。
 ズワイには甲羅に黒い粒がついているものもあり、この正体はカニビルという生き物の卵でなぜか日本海近海でしか付着せず輸入モノにはありません。気持ちのよいものではないのですが、新鮮さと国産の証明としてありがたがられています。
ロラのような、との意でこちらは鮮やかな体のオレンジ色に着目したもの。カラフルで見応えのあるジョウビタキの面目躍如といった命名です。

ズワイガニ

関連項目

参考文献