二十四節気
小満
万物盈満すれば草木枝葉繁る
5月21日頃が「小満」。輝く陽光のもと南風が吹きわたり、生き生きと生い茂る草木の影も日に日に濃くなっていきます。爽快な風に心躍る山登りやスポーツにもぴったりの季節です。力強い「青嵐」は恵みの雨をもたらすことがあります。予報が雨の日にはしっかりめに準備をしましょう。暦便覧は「ばんぶつえいまんすればくさきえだはしげる」と読み、「盈満」は「満ちあふれる」という意味です。のびゆく青葉をゆらす風をうけて、少し遠出をしてみましょう。山や森や野原で、小鳥のさえずりに耳を澄ませてみましょう。季節の作物や魚にも、夏の気配が満ちあふれています。
七十二候
蚕起食桑
蚕が盛んに桑の葉を食べだす頃。養蚕業は、弥生時代に稲作とともに中国から伝来したとされています。古事記にも登場する美しい絹織物は長い間人々の憧れであり、十分な量を国内生産するために江戸幕府は養蚕業を奨励しました。蚕がたくさん葉を食べてくれる日を待ち望んでいたのは、養蚕業に携わる人だけではなかったのです。
紅花栄
紅花が咲きほこる頃。原産地の中近東・エジプトからシルクロードを経て日本にきました。その時期には諸説あり、3世紀中頃~6世紀と幅がありますが、推古天皇の頃という説が有力です。古くは「呉藍(くれのあい)」と呼ばれました。藍とは、色のことではなく植物と言う意味です。「中国からきた植物」という元の名は、「くれない」の色名として今に残っています。
麦秋至
麦の穂が色づき実りの季節をむかえる頃。「秋」は「実る」ということをあらわしています。「麦秋」という言葉は「麦の収穫期」を指すようになりました。秋に蒔き、冬を超えて芽吹く麦。黄色くなり始めた麦の穂がしっかりと太っていたら…植えたばかりの米の実りの時期を思わせ、ひときわ嬉しかったことでしょう。
季節のことば
五月晴
同じ漢字でも、読み方によって指す時期が違うのをご存じでしょうか。大陸からやってくる高気圧によって5月に晴天が続くことを指す時には「ごがつばれ」と読みます。「さつきばれ」と読む場合には、旧暦の5月(皐月)は現在の6月のことなので、梅雨の合間の晴れ間を指します。5月の晴天を「さつきばれ」と言うのは誤用ですが、平成も20年を過ぎ、ニュースや辞書などでも曖昧になってきています。
青嵐
青葉を抜けて吹きわたる風、山中の冷え冷えとした空気の中を吹きわたり命の気配を感じさせる風、青葉の繁る頃に吹く強い風、初夏に吹く台風のような強い風。爽やかな中に力強さや若々しさを感じさせてくれるこの南風は時に雨雲をともない、強く降らせることがあります。山や川・海などに出かける際は雨具の用意や天気予報のチェックをお忘れなく。
この時期の風習や催し
更衣
6月1日に全国一斉に「夏服への衣替え」が行われます。明治に入ってグレゴリオ暦が導入されて以来続くこの習慣は日本独特のものです。中国の風習に倣い、平安時代の宮中行事で旧暦4月と10月の1日に行われたのがその始まりです。元の読みは「こうい」で、天皇の着替えを手伝う女官の役職名も同じになったため、早い時期から庶民の間では「ころもがえ」と言われていました。江戸時代には春夏秋冬の四度衣更えをすることが定められており、庶民もそれに倣いました。
潮干狩り
海水温が上がり、冷たい水が苦手だった人も楽しめる潮干狩りの最終シーズンです。足元の怪我と日焼け、水分補給の準備をして出かけましょう。夏は日中の潮の引きが弱く、食べるとあたってしまう「貝毒」も発生するので、梅雨入り前が限界とされています。温暖化のあおりか、早い時期に貝毒が報告される地域もありますので、当日の会場での情報に十分注意してください。海の生き物の観察や、ビーチコーミングも楽しいですよ。
季節の食・野菜・魚
空豆
さやが空にむかって伸びるので空豆。8世紀頃インドの僧・菩提仙那が渡日し、行基に贈ったことで広まったと言われており、「天豆」と書く時の「天」は空のことではなく天竺のことだとも言われています。蚕にさやの姿が似ているので「蚕豆」とも書き、どれも正しい言葉です。くすんだ皮からつるりと顔を出す艶やかな緑の豆は乾燥を嫌います。さやをむいてしまうとすぐに乾燥が始まり味が落ちるので、さや付きのものを。皮のまま、てっぺんに十字に切れ目を入れて塩をきかせてさっと茹でると、色よく美味しく仕上がります。
麦
大麦・小麦ともに弥生時代に中国から伝来し、奈良時代には盛んに栽培されるようになっていました。大麦の「大」は「品の良い」「便利な」という意味。殻とふすまを取り除くだけで粥として食べられる種が「大麦」です。粉にする必要がある小麦は、長らく牛・馬・山羊の方などの飼料となることの方が多かったようです。石臼が普及し、小麦粉が庶民の口に入るようになったのは江戸時代のこと。それでもなお贅沢品であり、和菓子に「薄皮」のものが多いのはその名残とも言われています。
鱚
産卵期を迎え、浅瀬までやってきます。腕のいい漁師でなくとも獲れるようになるこの季節を昔の人はとても楽しみにしていました。普段は夜は砂に潜って寝て、朝日とともに泳ぎだします。淡泊でやわらかな白身とスマートで優美な姿で「海の鮎」と呼ばれることもあります。殆どの種が食用となり、刺身や塩焼きで何匹食べても飽きないところも人気を呼びました。小麦粉が贅沢に使えるようになった私たちは、サックリ熱々の天ぷらもいただきたいですね。
- 新版 美麗写真でつづる 日本の七十二候 晋遊舎
- 二十四節気と七十二候の季節手帖 山下 景子著 成美堂出版