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季節の草花と生き物

処暑の時期の草花と生き物

処暑しょしょ:新暦8月23日頃

重みを増していく穂波の中で見つかる、可愛い虫の音楽隊。寂しげに揺れる花やひっそりと気品を持って咲く花が人々の心を掴みます。しなやかに揺らぐ花が多いのは、野分に負けないための進化かもしれませんね。
二十四節気:処暑について

季節の草花

狗尾草えのころぐさ

重みを増して垂れる穂は、日本犬のくるりと巻いた尾にそっくりです。穀物の粟の原種なので脱穀すると食べることができますが美味しくはなく、飢饉の時にのみ食べていたようです。別名「猫じゃらし」の方がお馴染みですが、暢気に猫をじゃらせるようになったのは江戸時代以降のようです。弥生時代以前に家猫がいたという物証は発見されておらず「遣唐使と共にやってきた」「明の時代に経典を守るためにやってきた」など諸説があります。大切に飼う様子が書物の中に登場するのは平安中期以降。絵画の中でも長い間、紐に繋がれた姿で描かれています。
花言葉:遊び、愛嬌

ねこじゃらし

にら

「韮の花」は夏の季語ですが、実際に花が咲くのはこの初秋。白い可憐な花を咲かせます。古事記には加美良(かみら)の名で登場し、古来より栄養豊富な胃腸に良い食物として重宝されてきました。五菜の1つの野菜としての「韮」は春の季語ですが、秋から冬も食べごろと言えます。厚みを増していく葉は鍋料理や炒めものにぴったりです。
花言葉:多幸、星への願い など

韮の花

杜鵑草ほととぎす

鳥の杜鵑の胸にある模様と花びらの模様が似ていることからこの名が付きました。「ほとどきすそう」とは読みません。半日陰ですっくりと背を伸ばす気品のある花です。白地に紫の斑紋の山杜鵑草が有名ですね。ホトトギス属の花は東アジアに約20種。日本には10種の固有種が自生しているため日本原産ではないかと言われており、英名はJapanese toadlily(ジャパニーズ・トードリリー)となっています。
花言葉:秘めた意志、秘めた恋、恥ずかしがりや、永遠にあなたのもの、永遠の若さ など

ホトトギス花

秋明菊しゅうめいぎく

最後に「菊」が付いていますがキンポウゲ科でアネモネに近い花です。紫の強い赤が美しく、「秋牡丹」「秋芍薬」など、たくさんの別名を持っています。古い時代に中国から伝来した帰化植物で、江戸時代には園芸種として人気を博しました。寂しげに揺れる可憐な姿はコスモスによく似ています。コスモスも明治中期に輸入された比較的新しい帰化植物で、こちらは菊の仲間です。
花言葉:あせていく愛、多感なとき

秋明聞

季節の生き物

松虫まつむし

美しい声の虫として有名ですが、ティッティリリーッ!!ピッピリリーッ!!と高く響くその音はどうしてもチンチロリンとは聞こえません。鈴虫のリーンリーンの方がよほどチンチロリンに似ています。松虫と鈴虫は生息地がほぼ同じで、色と大きさが違いますが、よく似ている虫です。夜は月明かりだけが頼りでしたから、見分けがつかなかった庶民が混同したものが広まったと言う説が有力です。平安時代までの書物では、鈴虫は今の松虫を指し、松虫は今の鈴虫を指し、全く逆になるというのが定説です。

マツムシ

竈馬かまどうま

長い触覚と大きな脚が特徴的で馬の如く跳ね、子どもの頭上など軽々と飛び越えてしまいます。羽がなく、鳴けないこの虫の長い顔はよく見るとかなりの美男子。昔の人は「馬に似ている」と思ったそうです。人間の食べ物はなんでも食べる雑食性で、土間に落ちたものや他の虫もその糞も食べてくれます。毒は持たず、黴菌を媒介することもありません。竈の傍で大人しく暮らし、益虫的立ち位置で古来から人と共にありました。便所コオロギという可哀想な俗名がありますが、キリギリスの仲間です。

カマドウマ

百舌もず

俳句の中で使う時は「鵙」と書くことが多いです。縄張りを主張して高い木の上でキィーッキィーッと鳴く声が秋の澄み渡る空気とよく似合うとされ、澄んだ秋の空気を指す「鵙日和」「鵙の晴れ」の言葉があります。雀に似た明るい茶色の頭に黒い目張りをきかせ、小さいながらも肉食であることを宣言しているかのよう。しかし足は猛禽類のように強くはなく、有名な速贄(はやにえ)は、獲物をゆっくり食べるためではないかという説が有力です。

モズ

和亀わがめ

夏祭りや金魚市で手に入れ、初めて子亀を買う方も多いのではないでしょうか。銭亀(ぜにがめ)はイシガメやクサガメの子どものこと。子亀は冬眠させないで平気ですが、立秋をすぎると驚くほど食べなくなる個体がいるので、いまのうちにしっかり食べさせてあげましょう。小魚を丸ごとすり身にすると喜んで食べます。大人になっても甲羅に金に近い線がはっきりと残るクサガメは金銭亀(きんせんがめ)と呼ばれ、長寿と繁栄の象徴として高値が付きました。江戸時代の浮世絵にも、得意げに台車で引きまわす様子が描かれています。

イシガメ

関連項目

参考文献