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季節の草花と生き物

寒露の時期の草花と生き物

寒露かんろ:新暦10月8日頃

 空を見上げると冬鳥が姿を見せ始め、草むらからはにぎやかな虫たちの声。秋の花々が咲き誇り、田畑は待ちわびた収穫の時期を迎えますが、日脚も短くなり徐々に冬の足音が聞こえてくるような気がしてきます。にぎやかな虫の音も、懸命に相手を探して子孫を残し、やがて消えゆくいのちの最後のかがやきなのです。
二十四節気:寒露について

季節の草花

 日本の秋を代表する花。大昔から日本にあったように思えますが、意外にも奈良時代に中国から渡ってきた外来の植物です。「キク」というのも音読みで、これも意外や訓読みはありません。原産地中国では4000年も前から栽培されていたともいわれています。
 日が短くなると花を開く短日植物で、9〜11月が花頃ですが、仏花などとして需要があるため夏咲き種や温室栽培のものが流通し年中見ることができます。
 「菊の御紋」といえば皇室のシンボルですが、菊が皇室を表すようになったのは、鎌倉時代の天皇、後鳥羽天皇が自分の持ち物のマークとして菊紋を使ったことが始まり。16弁の菊が天皇家の紋で、各宮家はそれぞれにアレンジを加えたオリジナルの宮家紋を使用します。
 また、菊には長寿の不思議な力があるとされ、宮中では9月9日の重陽の節句に菊酒を飲んで邪気を払う伝統がありました。重陽を過ぎた菊を「残菊」と呼びますが、新暦では9月はまだまだ菊の盛り前。残り物というのは少々かわいそうですね。

花言葉:高貴、高潔、清浄 など

白菊

七竃ななかまど

 大きなものでは10メートルにまで育つバラ科の落葉高木で、秋、燃えるように真っ赤な紅葉で見る人を楽しませてくれます。
 「七竃(ななかまど)」という名前の語源は、「7回竃にくべても燃え残るほど硬い木だから」「この木から器を作ると、7回竃が壊れるほど長い間使える丈夫なものになるから」「7回竃で燃やして炭にするから」など諸説あり。硬い木はじっくり燃えるため火の持ちがよく、薪材として喜ばれます。炭の材料としても好適で、高級な炭として知られる備長炭のなかでもナナカマドから作られたものは特に最上の品とされました。
 燃えにくいという俗説からか、北海道では火除けの街路樹として多く植えられることになり秋の道を真紅に彩っています。房状の実も葉と同様真っ赤に色づき、落葉後にも枝に残って独特な景色を作ります。
 北欧の神話では、洪水に溺れそうになった神様がナナカマドにつかまって難を逃れたという伝説があり、航海と安全のお守りとして大切にされました。

花言葉:慎重、用心、思慮 など

ナナカマド紅葉

竜胆りんどう

 口の裂けたラッパのような、また釣鐘をひっくり返したようにも見える青紫の美しい花を咲かせる多年草。やや乾燥気味の草原などを好み本州から九州まで広く自生しますが、昔のように田畑のあぜなどに楚々と咲く姿が見られる場所はどんどん減っているようです。
 花の美しさから園芸品としての栽培もさかんで、また根は漢方薬としても利用されます。根を乾燥させた薬としての名前は同じく「竜胆」と書いて「りゅうたん」。竜の肝のように苦い、という意味だとか。解熱、消炎、胃腸の改善などに効果ありとされ、中国だけでなく古代エジプトでも薬として用いられていたとの説があります。もともとは草花としても「りゅうたん」と呼ばれていたのですが、いつしか訛って「りんどう」に。確かに「りんどう」の方が、愛らしい花にはお似合いという気もします。
 生花店などで売られているのはエゾリンドウの栽培改良品種で、高山にひっそりと咲くのはミヤマリンドウ。コケリンドウ、フデリンドウは春の季語になり、世界中ではおよそ300種が知られています。

花言葉:誠実、正義、寂しい愛情 など

エゾリンドウ

エゾリンドウ

季節の生き物

つぐみ

 秋、シベリアから日本を目指し訪れる冬鳥で、大群をなしてやってきますが日本に着くと散り散りになり、単独や数羽の群れに分かれて行動。シベリアに帰るときには再び大群を作って飛び立っていくという、なかなかにドライな個人主義的ポリシーを持った鳥のようです。
 ピョンピョンと軽快に地面を飛び跳ねながら昆虫やミミズなどをついばみ、時折堂々と胸を張ってあたりを見回すような姿勢をとります。この様子が馬のようだということで、古くは「鳥馬(ちょうま)」とも呼ばれました。
 キイキイ、キョッキョッ、クワックワッといった騒々しい声で鳴きますが、冬鳥ですから夏場は日本におらず、春先頃の渡りを最後に鳴き声は聞こえなくなります。昔の人はこれを「鳴くのをやめて口をつぐんだのだ」と想像して、「ツグミ」と名付けたといわれています。
 肉は野鳥のなかでも一等美味とされ霞網猟の格好の獲物とされましたが、現在は厳重に保護され捕獲することはできません。

つぐみ

キリギリス

 ギーチョン、という鳴き声が機織りの音に似ることから「ハタオリ」とも。風流な鳴き声ですが、性格は肉食でとても獰猛。アゴの力も強く、人間でも噛まれるとかなり痛み、出血するほどのケガになることもあるので虫採りでは注意が必要です。縄張り意識も強く同種であっても容赦なく共食いをしてしまうため、飼育の難しい虫としても知られます。
 キリギリスといえば童話「アリとキリギリス」では怠け者の代表として登場しますが、春に孵化したキリギリスは一夏をかけて成長し、秋口に産卵を済ませると死んでしまう儚い命。越冬の準備が必要なアリとは生活スタイルが違うのも当然で、「怠け者」扱いされるのはずいぶん不本意かもしれませんね。
 季語としての「キリギリス」は、本来コオロギのことを指したと考えられています。昔は鳴く虫はなんでもコオロギと呼んでいたそう。漢字の「蟋蟀」も、キリギリス、コオロギどちらにも読みます。

キリギリス

はたはた

 民謡「秋田音頭」の歌い出しに登場するほどに愛される秋田県のシンボル的存在で、県の魚にも指定された郷土の味覚。大きさは20センチほどで、ウロコがなく骨の柔らかいことも好まれる理由になりました。身だけでなく、魚醤「しょっつる」の原料としても余すところなく使われます。
 ハタハタを塩に漬け込みじっくりと発酵させ、染み出した汁をろ過すればしょっつるの出来上がり。鍋にいれればしょっつる鍋に、調味料として炒め物やラーメンなどにも使える優れものです。
 ハタハタが産卵のため沿岸に押し寄せるのが11月頃。雷の時期に重なるため、魚偏に雷で鱩、また「かみなりうお」とも呼ばれます。昭和の中頃までは大量に獲れ、打ち上げられた卵で砂浜が赤く埋め尽くされるほどの光景も見られましたが、ご多分に漏れず乱獲によって全滅といえるほどに激減。平成に入って自主的な完全禁漁が行われてから回復傾向にありますが、一度減った資源を元通りにするのは並大抵のことではないようです。

ハタハタ

関連項目

参考文献