Column

二十四節気と七十二候

大暑 –真夏の扉、開く–

二十四節気

大暑たいしょ:新暦7月23日頃

暑気いたりつまりたる所以なればなり(暦便覧)

A233_008暑い暑いと口にしつつ、その暑さが愛おしい晴天の日々。各地で梅雨が明け、湿気をはらんだ熱気が野山に里に満ちていきます。海や川、山や空が呼んでいます。花火大会やお祭りも目白押し。日本の真夏が始まります。「いたりまつる」と言いつつも、本格的な暑さは始まったばかり。元気に、心豊かに、この暑さを楽しみましょう。風鈴、扇子、浴衣に日傘、涼を求めて古人の知恵を活かしましょう。打ち水の音の一瞬に、喧しい蝉の声は爽やかな歌に変わります。ガラスの器にビー玉やおはじきを入れて花を活けたり、枕カバーに和手ぬぐいを使ってみたり。家の中でも涼の楽しみがたくさん生まれます。

七十二候

桐始結花きりはじめてはなをむすぶ:7月23日頃

桐の実が生り始める頃。古来より神聖な木とされてきた桐。天下人も好んで桐の紋を用いたため庶民にも親しまれ「五三の桐」は広く通用する紋としてお馴染みです。軽く気密性に富み湿気や虫に強い桐は、用途の広い木材です。木として成熟するのに約20年かかり、切ってからも反りのないよい木材とするのに最低2~3年かかります。建材から下駄、茶箱、衣装箱、嫁入り箪笥、木端は薪炭に。「昔は娘が産まれると桐を植え、嫁入り道具を作った」とする伝は「そうした人がいた」程度の話が肥大化したものです。

土潤溽暑つちうるおうてむしあつし:7月29日頃

土が湿って蒸し暑くなる頃。例年土用の丑の日の前後となり鰻が話題をさらいます。昔の人にとっては嬉しい真夏の滋養の源。殺生を禁じている土用ですが「土のものではないから魚類はよい」。中でも丈夫な鰻は夏場でも生きたまま遠くまで届けることができたので喜ばれたものでした。真夏の滋養が増えた今では「土曜は鰻の日」「土用は牛肉」など同音異義語のキャッチフレーズもお馴染みとなりました。同音異義語にことのほか面白みを感じてしまうのも意味を取り違えてしまうのも、そこから新しいことが生まれるのも、漢字かな混じりの日本独特の文化です。
リンク:小暑 土用

大雨時行たいうときどきふる:8月3日頃

3454825時として大雨が降る頃。全国の人が踊れる盆踊りの1つとして名高い花笠音頭で有名な山形の花笠祭はこの頃開催されます。東北四大祭りの1つでメイン会場は山形駅から徒歩10分、雨天決行です。雨除けにも踊りにも大活躍の笠を携えて出かけるのも素敵です。大雨と言えば、年々増していく激しさと内水氾濫と言われる都市型水害にご注意を。マンホールの蓋の外れは大変に危険です。外出を避け、どうしてもの際は傘や棒などの長いもので突いて足元を確かめましょう。

季節のことば

蝉時雨せみしぐれ

たくさんの蝉が一斉に鳴きたてる様を時雨の音に見立てた様。梅雨時からチーーッと鳴き始めるニイニイゼミは桜・梅・杏などの木を好みます。警戒心の薄い暢気な蝉で、手で簡単に捕まえることができます。朝や日暮れにカナカナカナ…と優しく鳴くのはヒグラシ。日中大声を立てるのは、シャンシャンと鳴くクマ蝉とミーンミンミンのミンミン蝉。暗くなってから洗濯物を取り込むと紛れて入室しては大騒ぎを引き起こし、ジージーと夜中でも元気なのはアブラ蝉。多くの地で大雨時行の頃に羽化を始めるツクツクホーシの「オシーンツクツク」だけが残る時、季節は秋へと向かいます。

入道雲

6932716積乱雲のこと。雲の峰とも言われるもくもくと湧き上がり刻々と姿を変える様や、朝陽や夕陽に染まって色を変えていく様に心が躍ります。別名に雷雲があるように雷をともなうこともあり、下降気流が強い場合には竜巻をもたらすこともあります。雨をもたらすものの場合は「猫や赤子がよく眠る」とされています。優しく日陰を作る様は入道さま(お坊さま)のようで、大暴れの前触れとなる様は妖怪の入道のよう。同じ入道の名で2つの異なる様を見事に言い表しています。

草熱れくさいきれ

草むらが夏の強い日ざしを受けて発する熱気のこと。転じて「蒸されるような暑さ」も指します。暑い最中、気の進む作業ではありませんが、こまめに草取りを。子どもたちにより自然な環境を…と、バッタや蝶などと親しめるように都内の一部の公園で草木をそのままにしたところ、蚊や蠅が大量発生してしまったという事例が報告されています。犬猫の完全室内飼いやカラスの駆除などで「人里」の食物連鎖は大きく変貌を遂げました。草木だけを放置しても人里は完成しないのです。

この時期の風習や催し

天神祭てんじんさい

日本三大祭りとなったのも、祀られる菅原道真が学問の神となったのも江戸時代から。忠臣として朝廷に重用された道真が大宰府に左遷され、失意の中で亡くなったあと天災が続いたことから「道真の祟り」とされ、その魂を鎮めるために951年に大阪天満宮で初めて執り行われた神事が元。長く祭礼を続けるうちに、天災や火災が気象条件的に発生しやすい時期で祟りではないことが体感的にわかってきました。それに伴うように道真が幅広い学問に秀でた優れた人であったことが知れ渡り、学問の神となりました。現代の天神祭は6月下旬の吉日に始まり、道真の命日7月25日にクライマックスを迎えます。

ねぶた祭り

青森県を筆頭に東日本各地で8月初旬に行われます。七夕や精霊流しが合体した民間行事が元で、夏の眠気を吹き飛ばす元気いっぱいのお祭りです。青森ねぶたに300万人、弘前ねぷたに150万人。二大ねぶただけでも毎年450万人を超える人が集います。弘前市などの津軽地方でねぷたと言いますが、1722年に「藩主が弘前でねぷたを見物した」という記録が残っています。見る人を楽しませることに主眼をおいた大型の山車灯篭の始まりは1804年からの文化年間。江戸っ子の祖の一大勢力の故郷の派手なお祭りは、江戸でも古くから人気を博しました。江戸が開かれた時、宮大工や指物師などとして東北から多数の人が招かれています。

ねぶた祭り

花火

日本の花火は鉄砲の「種子島」がもたらした火薬が元で、その歴史は意外と浅いものです。徳川家康が初めて見た花火は竹筒に火薬を詰め火を吹くだけの「手筒花火」でしたが、誰でも扱えるものでない危険性が一層の感動を呼びました。打ち上げ花火の掛け声で知られる玉屋と鍵屋は江戸の花火師の屋号です。現代でも大人気の隅田川の花火大会の原型、1733年の両国・大川の川開き花火大会でその名を轟かせたのが日本橋横山町の天才花火師鍵屋六代目弥兵衛。仕掛け花火を開花させたとされる鬼才です。その鍵屋の番頭静七が暖簾分けによって両国に1808年に開いたのが玉屋。派手な仕掛けが人気を呼びました。

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八朔はっさく

八月朔日の略で旧暦8月1日のこと。果物の八朔の語源であり、8月1日頃に食べられるようになるからとされています。早稲の穂が実る頃でもあるので、初穂を恩人などに贈る風習が古くから各地にありました。このことから田の実の節句が始まり、江戸時代には豊穣や子孫繁栄を祈るお祭りとなりました。八朔祭は旧暦に合わせ9月に行うところが多数です。田の実と頼みをかけ、武家や公家の間で感謝の意をこめて贈り物をするようになった習慣は、お中元とは別に花街の芸妓や舞妓の世界に残りました。芸事の師匠や御贔屓筋に新暦8月1日に贈り物をします。

はっさく

季節の食・野菜・魚

穴子あなご

穴子を食えずして江戸っ子にあらずと言われた江戸前鮨の代表格。大暑の最中が旬で鰻よりも脂が少なく、さっぱりとした味わいが特徴です。夜行性のため、明け方や日暮れ前には寝ぼけた穴子を簡単に釣ることができます。湯引きしたり加熱したりの下処理をするネタを総じて「蒸し物」と呼びますが、穴子をすぐに捌いて蒸してから市場に流したため「蒸し物」の名が生まれたとも言われています。ふっくらと下ごしらえしたら各店秘伝の甘いタレを塗ったり煮込んだり…鰻のように食べる時にも山葵醤油をちょいとかけるのが江戸風です。白焼きや天ぷらも是非どうぞ。

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枝豆

鞘ごと口に含み、汁気と塩味と豆の甘みを口内調味する夏の醍醐味。枝付き・根付きの露地物が旬を迎えます。「根付きを食い倒すと寝付かない」と口の減らない江戸っ子は言ったそうです。フライパンや浅鍋を使う蒸し煮は、豆の甘みの流出が少なく、味がよく染み、調理時間が短くてすむのでお勧めです。鞘の両端を深めに切り落として塩を振り、水で始めるのがポイントです。水は鞘が半分以上顔を出す位、少な目に。ひとつまみ砂糖を入れると塩味が引き立ち、黒胡椒も加えるとより一層大人な味わいに。甘みが強く濃厚な味わいが人気のだだちゃ豆は山形県鶴岡市の特産品です。

枝豆

西瓜すいか

生産量ダントツ日本一は熊本県。2位千葉県、3位山形県、4位鳥取県、8位には北海道。全国に散らばる名産地から日本中で愛されていることが伺えるスイカ。大玉を買ってみたけれど食べきれず、冷蔵庫にも入らない…そんな時は黒い種をとってピューレーにしましょう。砂糖を使わなくても十分な甘みがあり、ひとつまみ塩を入れるとより一層甘みが増します。ヨーグルトにかけて甘味料に、冷凍してアイスに。白い部分は胡瓜のようなあっさりとした味で、お味噌汁の具にも漬物にもなります。

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玉蜀黍とうもろこし

「舶来の、唐土(もろこし)に似たもの」と言う意味。その味は16世紀にポルトガルからもたらされました。当初舶来には「唐」の字があてられました。唐の時代に中国から伝来した唐土は、甘味を採る黍(きび)として重用されたものです。唐唐土では変なので、粒が綺麗に並んだ黍という意味の玉蜀黍の文字があてられました。岡山県備前の「薩摩黍」など、どこからその地へ入ったかがわかる200以上もの別名があります。夜店のとうもろこしは蜂蜜を加えて茹でています。砂糖ほどべたつかず芯の部分に味が染みるため、ちゅっと吸い上げるように食べるとより一層美味しく感じます。

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関連項目

参考文献