Column

お花見特集

シチュエーション別桜鑑賞術


 桜の季節がやってきました。遠景、接写、どこから見ても美しい顔をみせてくれる桜。カメラファンの腕もうずきます。ただ、そうはいっても毎年毎年同じスポット、同じ構図の撮影では、ちょっと代わり映えがしませんよね。
 そこで、今年は「桜と◯◯」というプラスαのシチュエーションにこだわって、桜フォトにストーリーをもたせてみませんか?新しい桜の魅力に出会える、一味違った鑑賞と撮影のためのスポットをご紹介いたします。

桜と川 花見船から眺める桜

花見船とは?

桜と遊覧船(琵琶湖) 船に乗り、波間に揺られてゆったりと時間を過ごす。そんな贅沢なひとときを楽しむ船遊びは、平安時代の貴族文化にはじまり、江戸時代には大名や武士、裕福な町人たちの間にも広がり定着しました。
 川の流れが交通、流通を支える水運都市だった江戸や大坂では、この頃に屋形船からの花見を楽しむ文化も登場します。船では酒宴が開かれたり、風雅な俳会が催されたり、また障子を閉めてしまえば全くのプライベート空間となることから、艶っぽく男女の逢瀬にも使われたりしていたようです。
 江戸の隅田川と大坂の淀川は、どちらもご当地では「大川」と呼ばれ、桜、花火、夕涼みなど季節ごとの景色を楽しむ屋形船が数多く行き来していました。ただ、川端がソメイヨシノで埋め尽くされるほどになるのは文明開化以降のこと。現在の花見船からの景色は、江戸の大名、大坂の豪商も眺めることができなかった贅沢なものだといえるかもしれません。

スポットその1 隅田川

 江戸時代には、大江戸の主要幹線として流通の中核を担っていた隅田川。歴史、風情ともに屋形船、花見船の似合う川第一位、といえるでしょうか。
 吾妻橋から桜橋の間、約1kmに600本以上の桜が植えられた隅田公園は、上野や千鳥ヶ淵と並んで東京都内でも最も人気のある桜スポットのひとつです。屋形船も、この季節には花見船としてフル稼動。
 お花見シーズンの遊覧船は、日中であればおよそ30分ごとに発着していて、予約なしでも搭乗可能。夜間の運行は毎年の開花状況によっても変わりますが、19時頃まで楽しめます。こちらは予約が必要なコースもあるのでご確認を。
 隅田川から船を乗り継いで、東京のもうひとつの川と桜のメッカ・目黒川まで鑑賞する2大桜川遊覧ツアーなども組まれています。

隅田川桜橋

隅田川桜橋

スポットその2 琵琶湖

 琵琶湖八景に数えられ、古くから名勝として知られていた琵琶湖の海津大崎。現在は「日本のさくら名所100選」にも選ばれるお花見スポットとして、関西はじめ各地から訪れる人が絶えません。
 大崎の湖岸を4kmにもわたって彩る海津の桜。湖畔の散策もよいのですが、この桜を120%楽しむのには、やはり琵琶湖上からの景色を眺めるのがベストです。シーズンになると、大崎の岸辺は琵琶湖各地の港からやってきた大小の花見船で大いに賑わい、最近ではボートのパドリングや、カヌーを楽しみながら桜並木を見物する人も増えています。
 海津大崎のある高島市には、ご当地グルメとしても人気の味付け鶏肉「高島とんちゃん」など、花見酒にあう絶品もたくさん。川とはまた趣のある湖からの花見を楽しみながら、目もお腹も満足させることができそうです。

琵琶湖竹生島

琵琶湖竹生島

桜と海 ニッポンの美を堪能できる桜と海の奇跡の共演

海と桜のみえる場所

 海と山がなかよく隣り合う地形が多い、島国日本。そんな日本だからこそ、青海原にピンクの桜、という絶景スポットも数多く見つけることができます。海を借景にして、野や街中とはずいぶん違う表情をみせる桜を、ドライブがてら、サイクリングがてらに探してみるのもおすすめです。海風に舞う桜吹雪、といったベストショットに出会うチャンスも巡ってくるかもしれませんね。

スポットその1 尾道 瀬戸内海と桜

 広島県尾道市から愛媛県今治市まで、大小の島々をつないで通る「しまなみ海道」。瀬戸内海の自然、風景を満喫できるドライブ・サイクリングロードとして人気ですが、春にはいくつもの桜スポットを結ぶ桜海道という一面もみせてくれます。
 海道の起点、尾道市で第一の花見の名所は、市内南部にある千光寺公園。ロープウェイで千光寺山に登ると、公園内狭しと咲き誇る約1500本のソメイヨシノとともに、瀬戸内の島々、四国の山々までが一気に目に飛び込んできます。
 同じく尾道市向島の高見山や、愛媛県上島町岩城島の積善山など、島の頂から桜、海、島、対岸の四国や中国まで眺望できるスポットが目白押しなのも瀬戸内海ならではの魅力です。

しまなみ海道積善山からの眺め(SHIMAP しまなみ海道提供)

しまなみ海道積善山からの眺め(写真提供:SHIMAP しまなみ海道)

スポットその2 吾妻山公園 太平洋と桜

 神奈川県二宮町の吾妻山公園は、美しい湘南の海と桜を楽しめるロケーションが人気の癒しスポット。
 太平洋からわずか数百メートルの海沿いにぽこっと頭を突き出したような吾妻山は、その山頂部全体が公園として整備されています。周囲にさえぎるもののない頂からの景色は、ぐるりと360度が見渡せる大パノラマビュー。眼下に広がる太平洋はもちろん、振り返れば富士山や、箱根の山々までを望むことができます。園内に咲く桜は約200本。山頂の芝生に寝転びながら、ビルなどに邪魔されないゆったりとしたお花見が楽しめます。
 また、吾妻山は桜だけでなく、美しい菜の花畑がみられる公園としても有名で、「菜の花と富士」「桜と富士」「桜と海」などなど、季節によって様々なショットをおさめることができます。

吾妻山から桜と海

吾妻山から桜と海

桜と川 川面に敷かれた花びらの絨毯、花筏

花筏とは?

桜花筏 桜の花盛りはあっという間。満開を迎えた桜は一斉に桜吹雪となり、文字通り雪のように舞い踊ります。この花びらたちが川に浮かび、水面を桜色に染めながら流れてゆく風景を「花筏」と呼びます。花びらが織りなす花の筏。素敵な言葉ですね。「花筏がくだっていくね」なんてさらっと口にできたら、あなたはもう、立派なお花見上級者です。
 流れのゆるやかな平地の川や、城のお堀などでは、水面を覆い尽くすばかりに花びらが舞い積もることもしばしば。花筏の大編隊のような壮観をみることができます。

スポットその1 弘前城

 日本でも有数の桜の名所・弘前城は、花筏の規模、美しさも1、2といってよいでしょう。
 弘前城が桜の名所となったのは、明治時代からのこと。弘前の旧藩士たちが、2000本にものぼるソメイヨシノを植樹したことにはじまります。廃れゆくお城を思う武士たちの心が、日本中から人を呼び込む絶景を作り上げたのでした。
 この桜たちのはなびらが城の外堀に次々と降り積もると、水面はみごとに桜色一色に染め抜かれます。お堀は、本当にピンクの染料でも流し込んだかと思うほどのファンタジックな装いに。
 花びらは満開の前後から散り始め、花盛りを過ぎるとますます増えてゆくため、花が散ってもしばらく先まで楽しめる、というのもお堀の花筏の魅力。もし満開の時期を逃してしまったとしても、その時はぜひ花筏に注目してみてください。

弘前城外堀亀甲橋の花筏

弘前城外堀亀甲橋の花筏

スポットその2 都心でもみられる花筏 神田川、目黒川

 「花筏」という風流な響き。そんな素敵なものは、コンクリートジャングル東京ではお目にかかれない…かと思いきや、実は都心を流れる川にも毎年美しい花筏が出現しています。
 都心部をぐるりと取り囲むように流れる神田川では、高田馬場から江戸川橋までのおよそ2km区間の両岸が桜並木として整備され、毎年桜の天然アーチが作り出されています。
 桜並木の終点にあたる新江戸川公園付近の川面では、上流から流れ流れた桜の花びらが大集合。10メートルを優に超える川幅が、端から端まで桜色になることも珍しくありません。この真上にかかる江戸川橋では、毎年花筏最盛期の数日間、カメラやスマートフォンを持った人が詰め掛けて期間限定の絶景を撮影する姿が見られます。
 また、都心部では神田川にならぶ川×桜の名所、目黒川にも花筏があらわれます。目黒川の桜並木は4km弱と神田川よりも長く、こちらでも両岸の桜が枝を重ねて川を覆う桜アーチがみられます。
 流れに合わせ、たえず形をかえながら川をくだってゆく花筏。咲き誇る桜とは別の、一日中眺めていても飽きないような面白さがあります。

目黒川桜祭り

目黒川桜祭り

桜の海 桜雲ならぬ「桜の海」

幾百、幾千の木々が織りなす桜色の海

 桜といえば見上げるもの、というのが普通のイメージですが、逆に桜を見下ろして鑑賞することのできるスポットも存在します。満開の桜が視界を覆い尽くすほどに咲き誇る様子を「桜雲」といったりしますが、眼下に広がる桜はさながら「桜海」といったところ。鳥の目線になってお花見を楽しんでみましょう。

スポットその1 山から見下ろす桜の海 高遠城址

 「天下第一の桜」の異名をとる、高遠城址公園の桜。多くの城がそうであったように、高遠城は幕末明治の動乱を経て、一時期は荒れ放題という悲運に見舞われていました。そんな城址の姿を悲しんだ旧藩士たちの手によって、かつての桜の名所「桜の馬場」から1500本の桜が植樹され、往時の美しさを蘇らせたのが現在の公園の景色です。
 このとき植えられた1500本の桜は、タカトオコヒガンザクラという種類。ソメイヨシノに比べて赤みが強く、ひとつひとつの花はやや小ぶりながらも濃厚で力強い印象を与えます。
 この桜を見下ろせるのは、公園から川を挟んで数百メートルの場所にどっしり鎮座する、五郎山の山中から。中腹にひらけた白山観音の境内から見るタカトオコヒガンザクラは、「桜の海」という形容がぴったりの絶景を作り上げています。
 桜の海のなか、島のように赤い屋根をのぞかせるレトロな建物は高遠閣で、昭和の初期に建てられた貴重な建築として国の有形文化財登録を受けています。

高遠城址公園

高遠城址公園

スポットその2 空から桜をみてみよう 東京タワーとスカイツリー

 桜を見下ろせる場所といえば高層タワー。東京の新旧2大タワーである、東京スカイツリーと東京タワーからはどんな「桜の海」がみられるでしょうか。
 まず東京タワーからは、足元の芝公園と増上寺の桜がオススメです。公園内の200本の桜には、ソメイヨシノのほかサトザクラやヤマザクラなども入り混じっているため、開花のピークや色合いにバリエーションが生まれ、日毎に変わっていく花の様子を長く楽しむことができます。
 意外に知られていませんが、芝公園内にある丸山古墳は、東京都内でも最大規模の前方後円墳です。古墳に咲いた桜を上から眺める。そんな楽しみ方ができるのは、日本広しといえどここだけかもしれません。芝公園は、桜よりも一足早く盛りを迎える梅の名所としても知られています。
 もう一方の東京スカイツリーに最も近い花見スポットは、こちらもすぐお膝元に広がる隅田公園。高さ350メートルの天望デッキ、さらに100メートル上の天望回廊から眺める桜は、海というよりも池くらいに見えてしまうかもしれません。
 スカイツリーの近くには、大横川親水公園、浅草寺、東白鬚公園、そして山谷堀公園など、桜の名所がずらりと揃っています。上空からは上野公園や谷中霊園、もっと遠く新宿御苑なども見えることでしょう。春の東京を点々と彩る桜色を見つけて、どこの花見スポットか調べてみるのも、タワーからの眺めならではの楽しみでしょうか。

スカイツリーと桜

スカイツリーと桜