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紅葉特集

知って撮りたい!テーマで選ぶタイプ別紅葉スポット(2)


 中秋の名月も過ぎて、山々は赤に、黄色にと秋の装いに姿を変える季節に。国土面積の4分の3が山地という日本には紅葉スポットがそれこそ数え切れないほどあり、逆に撮影場所の選択に迷ってしまうというもの。そこで「きれい」「絶景」の他にもう一つテーマを加えて、今年の狙いを決めてみませんか?
 メジャーな定番からちょっと渋めの穴場まで、秋の撮影のワンポイントをご紹介いたします。

市街地の紅葉 美しく色づく街路樹の紅葉スポット

街路樹の紅葉
 大自然の紅葉も素晴らしいものですが、わたしたちの生活圏内にも意外な見どころが存在します。整然と並んだ街路樹の紅葉も素敵なものですね。

明治神宮外苑(東京都)

100年の歴史を持つ都会のオアシス

 大正時代の都市計画によって整備された明治神宮外苑とその周辺。代々木から千駄ヶ谷の一帯には、明治天皇を顕彰する明治神宮を中心に、国を挙げて市民の憩いの場が造られました。
神宮外苑のランドマークともなっているのが、歴史的建造物としても貴重な聖徳記念絵画館。この記念館を目指すように伸びるのが、150本近いイチョウの大木が立ち並ぶ300メートルにわたるイチョウ並木です。
 すべての木が葉を染め終える11月頃には、通りは「黄金の道」とでも呼びたくなるほど美しい景観になります。休日に歩行者天国となる道の中心に立って記念館をながめると、並木から記念館に至る構図の素晴らしさには思わず息を飲んでしまいます。100年前の設計者、職人さんたちの技量に感服。
 紅葉シーズンにはいちょう祭りも開かれ、模擬店なども出店されます。外苑は散歩にもうってつけですし、ゴルフや野球などスポーツ施設も目白押し。芸術の秋、スポーツの秋、食欲の秋…と存分に秋を満喫できる都内有数の紅葉スポットとなっています。

神宮外苑銀杏並木

神宮外苑銀杏並木

 ところで街路樹として、また神社やお寺の境内の木としてもお馴染みのイチョウですが、実は氷河期から生き残っているとても貴重な植物で、「生きた化石」とよばれているほど。
世界中で絶滅し中国の一部にしか生き残っていなかったのを、人間が再度広めて今のようにあちこちでみられるようになったと考えられています。何気なく見てしまいがちですが、日本にイチョウの大木が多いのは実はすごいことだったんですね。

マキノ公園のメタセコイア並木(滋賀県)

色も樹形も美しい生きた化石の並木道

 マキノ高原は滋賀県高島市マキノ町にある高原で、スキー場や温泉なども用意されたレジャー施設になっています。この高原のシンボルにもなっているのが、メタセコイアの並木道。高原に向かう一本道の道なり2.4kmにわたって、500本ものメタセコイアが植樹されています。

メタセコイヤ並木オレンジロード

メタセコイヤ並木オレンジロード

 メタセコイア並木が整備されはじめたのは昭和50年代の初頭からで、最初は「わざわざ花も咲かない木を植えるなんて…」と地元の評判はよくなかったそう。それが平成に入って新・日本の街路樹百景に選ばれたことで有名になり、また韓国ドラマ「冬のソナタ」に登場するロケ地に景色が似ていると評判になったこともあって今ではすっかり地元の誇り・財産といわれるまでに定着しました。

 メタセコイアの和名はアケボノスギ。80万年ほど前に絶滅した種と考えられていましたが、1945年中国の奥地で偶然に現存が発見され、接ぎ木と種子から苗が増やされて今に至ります。マキノ高原の並木は、「生きた化石の並木道」というわけ。成木は円錐形の美しい樹形になり、まっすぐに天に向かって伸びる姿は昭和天皇も好まれ、御製の和歌にもメタセコイアを詠んだものが残されています。
春夏秋冬いつでも美しいのですが、オレンジ色に紅葉する秋は特に美しく、日本の紅葉名所100選のなかに選ばれたこともあります。

紅葉の醍醐味 美しく染まる秋の深山

紅葉と山
 紅葉スポット数々あれど、一山をまるごと染め抜く雄大な紅葉はやはり外すことができません。秋の山には、日本人の心をとらえて離さない何かがあるようです。

雲仙(長崎県)

山肌の赤さが極まる天然記念物の紅葉

 島原半島の中心にそびえる雲仙は、秋の紅葉が美しいことで有名な山。イロハモミジや各種のカエデ、それにツツジやナナカマドなど目の覚めるような紅色に変色する樹種が多く、険しい山肌は赤い布を引いたような鮮やかな彩りに包まれます。
 雲仙の普賢岳や妙見岳の一帯は、「普賢岳広葉樹林」として昭和3年に国の天然記念物に指定されました。平成3年の噴火によって山容が大きく変形し、樹種にも高木が減り低木が増えるといった変化がありましたが、その美しさは今も変わることがありません。

朝の紅葉雲仙

朝の紅葉雲仙

 雲仙というとひとつの山のようですが、実際には普賢岳、妙見岳、国見岳といったいくつかの峰や岳からなる山体の総称です。最高峰は長らく標高1359mの普賢岳でしたが、平成の噴火で誕生した平成新山が1483mとその高さを追い抜きました。誕生後数十年の平成新山にはまだ美しい紅葉はみられませんが、いま現在日本でもっとも新しい溶岩ドームとして、こちらも天然記念物に指定されています。
 観光用のロープウェイも走っているので、鮮やかな紅葉を真上から撮影することも可能。観光用のロープウェイも走っているので、鮮やかな紅葉を真上から撮影するこ とも可能。もちろん登山もできるので美しい紅葉を間近で撮影することもできます。

栗駒山(宮城県)

東北随一の紅葉は日本列島の原風景

 標高1627mの栗駒山は、秋田、岩手、宮城の三県にまたがる広い裾野を持つ火山。東北地方のほぼ中央にあることから、蔵王や鳥海、早池峰といった名だたる東北の名峰、さらには太平洋までを一望できる人気の登山スポットになっています。広い裾野は、山頂を目指す登山だけでなく山裾や山腹を散策するトレッキングにも適していて、こちらも広い年齢層に人気です。

栗駒山の紅葉

栗駒山の紅葉

 栗駒の特徴はゆるやかな山肌の紅葉を大パノラマで眺められることですが、特に贅沢なのは中腹にある須川温泉からの眺め。源泉掛け流しの露天風呂につかりながら見下ろす紅葉は、トレッキングの疲れも一気に吹き飛ばしてしまうほど見事なものです。須川温泉の湧出量は毎分6000リットルと日本でも有数で、秋にはこの温泉と紅葉を目的に、多くの観光客が詰め掛けます。

 東北らしくブナが多いのも栗駒の見どころ。原生林を通過する国道からは、ドライブしながら黄色〜オレンジ色の美しいブナ林の紅葉を堪能することもできます。

平安貴族も嘆息した百人一首に詠まれた紅葉

百人一首と秋の句
 百人一首を四季ごとに分類すると、最も多く読まれているのは秋の句になります。平安の人々も、紅葉の秋を最も美しく、心を打つ季節だと感じていたのでしょうか。

竜田川(奈良県)

百人一首に二首採用の名勝地

 竜田川は法隆寺にもほど近い奈良斑鳩を流れる川で、古来紅葉の名所とされました。

 千早振る 神代もきかず 竜田川 からくれないゐに 水くくるとは(在原業平)

 嵐吹く 三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり(能因法師)

 と、百人一首のなかに竜田川を詠んだ歌が二首とられていることからも、どれほどの絶景とされていたのかが伝わってきます。
歌からもわかるように、竜田川の紅葉の見どころは、川を真っ赤にしてしまうほどの落ち葉の流れ。桜の花びらが川を流れるのを「花筏(いかだ)」といいますが、竜田川はさしずめ「紅葉筏」といったところでしょうか。

滝田川紅葉橋

滝田川紅葉橋

 ただ、平安時代に詠まれた竜田川と現在の竜田川が同じ川なのかどうかには議論もあります。現在の竜田川は、平群川とも呼ばれていた大和川の支流。これに対して当時の竜田川は、竜田大社の近くを流れる大和川本流を指したのではないかというのも有力な説。古い歌の場所に諸説あるのは珍しくないことなのですが、どちらが正しいのかは気になるところです。それほど離れた場所ではありませんから、竜田川、大和川両方に足を運んで、どちらの紅葉が「真の竜田川」にふさわしいのか推理してみるのも面白いかもしれません。

嵯峨野・小倉山(京都府)

百人一首発祥の地の紅葉

 現在ふつうに「百人一首」というと「小倉百人一首」のことになりますが、これは編纂者の藤原定家が、小倉山の山荘で構想を練ったことからついた名前です。

 小倉山 峰のもみぢ葉心あらば いまひとたびの 御幸御幸またなむ(貞信公)

 小倉山の紅葉があまりに美しいので、「どうかもう一度行幸(天皇のお出かけ)があるまでそのまま散らずに待っていておくれ」…と紅葉に語りかけている味わい深い一首で、作者の貞信公は関白も務めた藤原一族の有力者・藤原忠平のこと。
 小倉山のある嵯峨野から嵐山の一帯は今でこそ京都でも一、二の人気観光地ですが、当時は都の外れの、ご隠居さまが静かに暮らす別荘地のような場所でした。それだけに、美しい中にも寂しさを感じさせる秋の紅葉の時期は特に胸に迫るものがあったようです。

秋の二尊院

秋の二尊院

 大覚寺、二尊院、常寂光寺、化野念仏寺と、嵯峨野の寺社はどこか「無常」を感じさせるような趣きもありますが、しっとりとした紅葉を味わうのにこれほどふさわしい場所はありません。嵐山山中を走る嵐山トロッコ列車にのれば、さらに雄大な保津川渓谷沿いの紅葉を楽しむこともできます。

ライトアップされた紅葉

夜も美しい紅葉たち
 ライトアップされた紅葉は、昼間とは全く違った幻想的な彩りに。漆黒の空をバックに、赤や黄色がより一層引き立っています。

大興善寺(佐賀県)

古刹の境内を飾るライトアップ紅葉

 大興善寺は、お寺の言い伝えでは奈良時代の高僧・行基菩薩によって開かれたという歴史ある名刹。契山の中腹にあり、本堂の裏手には大正時代以降つつじが植えられてその数は今や5万本。ここから「つつじ寺」の名前でもよく知られるようになりました。

 つつじの花咲く春も人気の観光スポットとなりますが、境内には500本からのモミジも植えられ、秋の紅葉シーズンもつつじに負けない人出を誇ります。山門に続く長い石段は、春はつつじ、秋には紅葉のアーチになって訪問客を迎えます。特に夜の境内のライトアップは、県内のみならず九州各地からも見物客が訪れるほど。夜のお寺と紅葉がなんともいえない風情を醸し出してくれます。
お寺までは車で訪れることができますが、山門から境内にかけてはアップダウンもあり意外に体力を使うこともあるので、足元は簡単なハイキング程度の準備をしたほうがいいようです。

 契山には、その昔神様がここで恋を成就させたという言い伝えもあり、若者には恋愛の「パワースポット」としても有名だとか。夫婦円満にもご利益があるかもしれません。

大興善寺の紅葉

大興善寺の紅葉

京都の寺々(京都府)

秋の京都はライトアップの聖地

 秋の京都の紅葉、一度は絶対にみておきたいものですが、名勝も多く「おもてなし」も行き届いているだけに一つだけをピックアップすることは至難のワザ。「夜のライトアップがきれい」を条件にリストアップしても、まだまだ絞り込むことができません…。

 絶対に外せない王道は「清水寺」と「高台寺」でしょうか。清水寺の、ライトアップされた1000本のモミジが清水の舞台を取り囲む景色は、他では決して見ることができません。仏の慈悲の光を表すという一条のサーチライトも、幻想的な世界にアクセントを加えます。そして清水寺から1kmちょっと、およそ15分も歩けばすぐに高台寺。秀吉の菩提を弔うためにねねが建立させたという歴史ある寺院で、美しい庭をつくったのは風流大名として知られる小堀遠州だといわれています。
 境内には重要文化財指定を受ける建築も多く、幽玄に輝く紅葉との取り合わせを見ていると、いつの間にか武士の時代に紛れ込んでしまったような気分になるのではないしょうか。
 広々とした清水寺の紅葉と、作り込まれた高台寺の紅葉。ペアで鑑賞するにもうってつけです。

高台寺紅葉水鏡

高台寺紅葉水鏡

 独特なライトアップで有名なのが「青蓮院」。江戸時代までは皇族が住職を務めた最も格式の高い寺院の一つで、今も別格の雰囲気を残す名刹。青蓮院のライトアップは、美しい青い光に統一されているのが特長です。この光もまた如来の慈悲を表すものだそうで、庭園は星の輝く宇宙のように。吸い込まれそうな青いライトアップもまたここでしか見られないオンリーワンです。

 その他名所を数え上げればきりがないですが、秋の京都は混雑もピークの季節。少しだけ時期をずらすのも賢い選択かも。

紅葉を走り抜ける鉄道

鉄道ファンでなくても、紅葉のなかを走る列車には美しさ、かっこよさを覚えてしまいます。

黒部峡谷トロッコ電車(富山県)

日本一のV字峡の紅葉

 黒部の山のなかを流れる、日本一深いV字峡として有名な黒部峡谷。黒部峡谷トロッコ電車はその深い谷を縫うように、宇奈月から欅平まで約20kmのレールを走る観光鉄道です。
 山の紅葉、谷を流れる青い川ももちろんですが、ここでの撮影いちおしポイントは、峡谷にかかる見事な鉄橋。紅葉にも負けないほど鮮やかな赤がまぶしい新山彦橋と奥鐘橋、対照的に青色が紅葉に映える後曳橋は、上から撮っても、渡って撮っても、列車に乗って撮っても画になります。もちろん、電車が走り抜けるタイミングを狙って一枚、もぜひ収めてみたいところ。

黒部渓谷トロッコ赤い橋

黒部渓谷トロッコ赤い橋

 窓のない開放型トロッコ車な大自然を身近に感じながら撮影することができます。電車からみえる景色や峡谷の絶景だけでなく、沿線の周辺には不思議な形の大木や岩など面白い見所も盛りだくさん。要所要所に展望台も整備されていて、ゆっくり回れば1日がかりでも撮りきれないかもしれません。
 撮影旅行に疲れたら、温泉で一休み。沿線には8つも温泉があり、もちろん日帰り入浴もOK。足湯や、黒部川の河原に湧き出る天然露天風呂といった変わり種もあります。

大井川鐵道 寸又峡(静岡県)

紅葉のなかを日本唯一の車両が走る

 大井川の流れに沿って静岡県を南北に縦走する大井川鐵道は、SLや実物大の機関車トーマスを走らせるなどユニークなプランで知られる観光鉄道。また、急勾配を走るため車両の下に歯車をつけた「アプト式」という機関車を日本で唯一残す路線でもあり、鉄道ファンのあいだでは必ず人気上位に食い込む有名な路線でもあります。

奥大井湖と大井川鉄道井川線

奥大井湖と大井川鉄道井川線

 各種のイベントも興味深いですが、沿線の景色も大井川鐵道のみどころ。千頭駅からアプトラインに揺られて奥泉駅で下車、そこからバスに乗り継いで30分もすると、複雑に蛇行した流れが素晴らしい寸又峡に到着します。
 エメラルド色の大間ダム湖にかかる「夢の吊り橋」は、湖面から8メートルの高さにかけられた総長90メートルもの吊り橋で、安全面から一度に10人までしか渡れないため観光シーズンには待ち行列ができるほどの人気スポット。橋の真ん中でお願いすると恋が叶う、というウワサも人気に拍車をかけたとか…。世界の徒歩吊り橋10選にもランクインしいています。

 寸又峡の紅葉、大井川沿いの紅葉、そして南アルプスあぷとラインやSLと紅葉のコラボ…。じっくり計画を練って、ぜひ泊まりがけて訪れたい紅葉スポットです。

 日本に数ある紅葉の名所を彩時記の視点から分類してご紹介しましたがいかがでしたか。オススメの紅葉スポットはまだまだたくさんあると思いますので是非投稿してご紹介ください。