Column

紅葉特集

意外と知らない紅葉の歴史と豆知識

紅葉はいつ頃から日本人に愛されるようになったのでしょう?紅葉ってなぜ起こる?
ふだんあまり意識しない紅葉の歴史と豆知識をご紹介します。

紅葉狩りはいつ頃から始まったのか

平安貴族の紅葉狩り

 秋、木々の葉が鮮やかに変色していく姿に、古代の人々は草木染めの染料を揉み出す様子を連想しました。揉み出す=「もみいづ」がなまって「もみぢ」になったといわれます。

 もみじは奈良時代の『万葉集』にもさかんに詠まれていて、この頃から人々の心をとらえていたことがわかります。ただ、万葉の時代までの「もみぢ」には「黄葉」の当て字が多く使われていました。漢文の単語をそのままとりいれたためですが、やがて平安時代になると「紅葉」と書かれるようになっていきます。
 これは平安貴族が、黄色よりも鮮やかに赤くなる葉を好み、表記も黄から紅へと変えていったため。今でも紅葉というと、どちらかといえば真っ赤な葉っぱを連想しますね。現代の日本人に伝わる美意識が、この頃には作られていたのかもしれません。

秋の詩仙堂

秋の詩仙堂

 さて、平安貴族はどのように紅葉を楽しんだのでしょう?
 数え方にもよるのですが、百人一首のなかには秋を題材にした句が20首あり、春夏秋冬のなかでは断トツのNo.1。直接「紅葉」を詠みこんだものも6首あり、平安貴族にとって秋の紅葉シーズンは和歌づくりにもってこいの季節だったようです。1000年前から秋はやっぱり〝芸術の秋〟だった様子。
とはいえ、平安時代にはモミジは山のなかにある樹木で、今のように庭木として植えられることはほとんどありませんでした。百人一首でも、紅葉は山や川とセットで詠まれています。紅葉狩りをするためには、嵯峨野・嵐山といった山深い都のはずれまで出向くしかなく、行楽気分で元気に出発、というものではなかったようです。
美しいなかにも世の中の無常や〝はかなさ〟を感じるのが、平安貴族流の紅葉観賞術でした。

八代将軍と紅葉

 紅葉狩りが大ブームになったのは、ずっと下って江戸時代から。泰平の世の中になり、お伊勢参りや富士詣でなど、庶民も安心して旅に出られる旅行ブームの時代がやってきたのです。
 江戸は出版文化も隆興した時代で、名所図会、今でいうガイドブックもさかんに出版されるようになり、紹介される紅葉スポットに庶民はこぞって訪れました。江戸時代の紅葉狩りでは、木の下に簡単な床をセットして、お団子など食べながらお茶を一服。お花見に近いスタイルでしたが、お酒をのんで大騒ぎというよりも俳句などひねって風情を楽しむものでした。

 こうした庶民の娯楽に心を砕いたのが、名君の誉れ高い八代将軍吉宗。
 花見で名高い飛鳥山は、吉宗が数百本の桜を植えてつくらせた名所だというのは有名なお話ですが、実は吉宗は大量のモミジの樹も植樹して、秋にも楽しめるように計画していました。
 飛鳥山から滝野川の一帯は紅葉の名所としても有名になり、その名残として東京都北区には今も「紅葉小学校」「紅葉中学校」があるほどです。

 しっとりと自然を感じる平安流紅葉狩り、ピクニック気分半分風情を楽しむ江戸流紅葉狩り。どちらの流儀も、現代の日本人に影響を与えているようですね。

植物はなぜ紅葉するのか

紅葉のメカニズム

 そもそも、落葉樹はなぜ冬になると紅葉して葉を落とすのか?
 その理由は、植物たちの高度な生き残り戦略にありました。

 冬になると太陽光が減り、空気も乾燥していきます。そうすると葉では春や夏ほど光合成ができなくなり、しかも呼吸のための穴から水分がどんどん逃げ出してしまうことになります。
 そうなると樹全体がダメージを受けてしまうため、植物は思いきって全ての葉を落としてしまい、栄養と水分を枝や幹に蓄えるという作戦をとります。これが落葉のメカニズムです。

紅葉の紅葉グラデーション

 では、紅葉するのはなぜか?
 葉を落とすため、樹は葉っぱの付け根にシャッターをおろして養分や水分を送るのをやめてしまいます。すると葉の中にあった光合成のための色素・葉緑体が分解してしまい、徐々に緑色が失われます。
 同時にこの時、葉の中に閉じ込められてしまった糖類がアントシアニンという赤い色素に変化していくのです。そうして緑がなくなり赤が増え、葉は徐々に赤く染まっていきます。やがて栄養と水分を使い切るとはらはらと真っ赤な落ち葉になっていく、というわけです。

実はわかっていない植物が紅葉する理由

 このように紅葉のメカニズムは解明されているのですが、では赤くなるメリットは?植物はどうして紅葉しようとするの?…という理由は、実はまだ解明されていません。いくつか有力な説がでている、というのが現状です。
 ひとつは、赤い葉をつくることで有害な紫外線をシャットアウトし、冬ごもりにそなえる大切な樹本体を守っているのでは?というもの。
 また、赤い葉っぱは昆虫たちにとってあまり魅力的にうつらず、産卵や寄生をためらわせる効果があるのでは?という考えも発表されています。

 どちらもなかなか実験では確かめづらいので、結論を出すのは難しいよう。「人間の目を楽しませるため」ということはないでしょうが、美しい紅葉をみるとついそんな気持ちにもなってしまいますね。

紅葉する木としない木、赤い葉と黄色い葉の違いは?

常緑樹は紅葉しない?

 「常に緑の樹」と書くくらいですから、常緑樹は当然紅葉しないもの。
 …と思いきや、実は常緑樹も、古い葉は紅葉してから落ちているのです。
 ではなぜ紅葉して見えないかといえば、古くなって色づいた葉を覆い隠すように若々しい緑の葉が生え、樹木全体としては常に緑色が保たれているから。
 落葉樹が一年で全ての葉を落としてしまうのに対して、常緑樹の葉はローテーション。2年以上の寿命をもっていて、ツバキの葉などは5年以上もついたままということもあります。

 クスノキなど常緑樹でも春先に芽が真っ赤になるものがありますが、このメカニズムは紅葉と同じ。芽にたまった糖分がアントシアニンに変化して赤く色づきます。大切な芽を紫外線から守るため、などの理由が考えられています。

クスノキの紅葉

クスノキの紅葉

赤い葉と黄色い葉の違いとは?

 葉っぱが赤くなる理由は「メカニズム」の項目でご紹介しましたが、ではイチョウのように黄色くなる葉があるのはなぜでしょう?

イチョウの黄葉

イチョウの黄葉

 葉が赤くなるのはアントシアニンという色素の影響でしたが、黄色くみえるのに必要な色素はカロチノイド。実はカロチノイドは、春からずっと葉っぱのなかにある色素なのです。
 赤い葉と同様、黄色くなる種類でも葉のなかではまず葉緑素が失われます。緑がきえていくと、それまでその後ろに隠れていた黄色がみえるようになってくる、というわけ。ここに赤い色素が加わらないため、葉は緑から黄色へと移り変わってみえます。
 カロテノイドは赤くなる葉にも含まれているので、葉緑素が消えアントシアニンが増えるまでにカロテノイドが優勢になる時期があり、
 緑→黄色→オレンジ→赤
 というグラデーションができることになります。

カエデの紅葉

カエデの紅葉

いちばん赤くなる木は何?

 では、最も赤くなる葉っぱといえばなんの種類でしょう?

 最もメジャーなものは、やはりカエデの種類。イロハモミジ、ヤマモミジ、ハウチワカエデなど、山中だけでなくその美しさから庭園や寺社の境内にもよく植えられます。
 ハゼノキやカイノキ(ランシンボク)などのウルシ科の植物の葉も赤くなることで有名。細身の葉のシルエットもきれいですが、ウルシ科はかぶれることがあるので接写にはご注意。
 北海道では街路樹としてもメジャーなナナカマドも、真っ赤に紅葉する種類。暑さが苦手なため、最高のナナカマドの紅葉は関東以北に足を延ばさないと見られないかもしれません。

 逆に、黄色の美しい葉の代表といえば、イチョウの木。春に真っ赤な新芽を出すアカメガシワも、秋は赤くならずに黄色い色づきをみせてくれます。赤い印象のカエデにも、ミネカエでなど黄色くなる種類が。
 ブナやクヌギなどのブナ科の植物も山全体を黄色く染めるほどになりますが、黄色のピークの時期はわずかで、その後はあっという間に茶色く変色していきます。

ハゼノキの紅葉

ハゼノキの紅葉

天気と紅葉の不思議な関係

紅葉のきっかけ

 植物は、なにを合図にして紅葉をスタートさせるのでしょう?

 日照時間が短くなる、夏に比べて湿度も下がる…など、秋におこるさまざまな気候条件の変化を敏感に感じ取っていると考えられていますが、なかでも最も重要な要素になるのが気温の変化。
 一日の最低気温が8〜6℃にまで落ち込むようになると木々は紅葉をはじめます。
 最低気温とともに大切なのが寒暖の差で、昼はよく日が当たって気温が上がり、夜になってぐっと冷え込む、という条件がそろうと葉のなかで赤い色素が多く作られ鮮やかな赤色が生まれます。
 逆に、冷夏で十分な温度上昇がなかったり、日照時間が不十分だったりするとややぼんやりとした紅葉になってしまいます。
 また一枚ずつの葉に焦点をあてると、日当たりの良い場所にある葉ほど早く色づくことがわかります。外側の葉が真っ赤になっても、その裏に隠れた葉には緑が残っていることもあり、木全体としては美しいグラデーションが作られていきます。

紅葉のモミジグラデーション

紅葉前線

 イロハモミジの紅葉前線は、平年10月中旬に北海道をスタートして、12月のなかばには本州最南端の鹿児島まで到着します。およそ50〜60日、2ヶ月ほどかけて日本列島を進むことになり、一日の移動平均はおよそ30km弱といわれます。
 ソメイヨシノの開花前線は、3月末に九州をスタートして5月の連休前後に北海道に到着するのが平均なので、ゴールまで約40日ほど。紅葉前線のほうがのんびりしているようですね。桜にくらべて見頃が長いこともよりゆったりした印象になるのかもしれません。

 最低気温が早く8〜6℃に届くほど紅葉も早くなるので、山地では山頂から裾野へと紅葉前線が降りてくるような染まり方になります。