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紅葉特集

知って撮りたい!テーマで選ぶタイプ別紅葉スポット(1)


 中秋の名月も過ぎて、山々は赤に、黄色にと秋の装いに姿を変える季節に。国土面積の4分の3が山地という日本には紅葉スポットがそれこそ数え切れないほどあり、逆に撮影場所の選択に迷ってしまうというもの。そこで「きれい」「絶景」の他にもう一つテーマを加えて、今年の狙いを決めてみませんか?
 メジャーな定番からちょっと渋めの穴場まで、秋の撮影のワンポイントをご紹介いたします。

草紅葉の名所

草紅葉
 紅葉といえば目線を上に向けがちですが、俳句、短歌の世界には「草紅葉」という言葉があります。雑草などと呼んでしまいそうな草たちの紅葉。そこにも木々の色付きとはまた違った、味わい深い景色が広がります。

国営ひたち海浜公園(茨城県)

丘一面を真っ赤に染めるコキアの紅葉

 戦前は陸軍飛行場、戦後も長く米軍基地として使用されていたこの場所が自然豊かな公園に生まれ変わったのは、時代が平成に変わってからのこと。現在では開園面積200haにもなる広大な国営公園として、一年中折々の花が楽しめる憩いの場となっています。
 秋に一番の見所となるのが、園内の「みはらしの丘」を見渡す限り真っ赤に染めるコキアの紅葉です。和名ではホウキグサとよばれるコキア。草丈1メートルにもならない、ホワホワとした姿のかわいらしい一年草ですが、紅葉のシーズンを迎えると黄緑の草全体が燃えるような真紅に染まっていきます。

ひたち海浜公園コキアの紅葉

ひたち海浜公園コキアの紅葉

 みはらしの丘はひたちなか市内でも最も標高の高い場所で、はるかに太平洋を見渡すこともできます。さらに海沿いには海風を直接感じることのできる砂丘エリアや、木々が紅葉する樹林エリアなどもあり、さまざまな秋の自然をいっぺんに楽しむことも。コキアの周りにはコスモス畑も整備され、鮮やかな赤とやさしいピンクのコントラストもまた素晴らしい秋を演出しています。
 実はひたち海浜公園、アメリカの放送局CNNから「日本の最も美しい場所31選」に選ばれ、今では海外からも注目を集める大人気観光スポットとなっています。このとき紹介されたのは丘一面を空色に埋める春のネモフィラの様子でしたが、秋のコキアの美しさも全く負けていません。

能取湖 サンゴソウ群生地(北海道)

地域の人々に救われた北の大地の宝物

 能取湖はオホーツク海に接する面積60㎢ほどの湖で、アサリやホタテ、ホッキ貝などがとれる豊かな漁場でもあります。毎年秋、この湖の周囲を美しく彩るのがアッケシソウの群生。強い塩水にも耐える塩生植物といわれる種類で、紅葉するとまるで宝石サンゴのような見事な赤に色づくことからサンゴソウとも呼ばれています。日本では群生が見られるのはほぼ北海道の一部に限られ、特に能取湖は日本一のサンゴソウ群生地として有名です。

アッケシソウの紅葉

アッケシソウの紅葉

 ところが2010年、土壌整備のミスから、能取湖の周辺で最も美しいとされていた卯原内の群生地があわや全滅という危機に見舞われてしまいます。この大ピンチを前に立ち上がったのが、地元網走の住民の方々でした。3万8000㎡ともいわれた大群生地を復活させるため、すぐに官民一体となったサンゴソウ再生プロジェクトが実行されます。
 そして約5年。地道な努力の積み重ねで、卯原内群生地はようやく「復活宣言」を出せるまでの回復に成功しました。サンゴソウは地元の宝物として、守られ、伝えられています。
 北海道の広い空、青い湖面と、真っ赤なサンゴソウの大地の取り合わせはこの地ならではの景観。サイクリングコースもつくられていて、湖周囲に点在する群生地を巡回することもできます。

紅葉が映える湖

紅葉と湖
 山一面の紅葉はそれだけでもきれいですが、湖面に映れば逆さ富士ならぬ「逆さ紅葉」。うまく波や風とのタイミングがあえば、そんな景色も収められるかもしれません。

十和田湖畔(青森県)

「湖に紅葉」といえば外せない絶景スポット

 湖×紅葉の撮影スポットとして、全国いち有名といっても過言ではないのが十和田湖。青森県と秋田県の境にまたがる湖をぐるりと取り巻くように、黄色く色づくブナやカツラ、真っ赤に染まるナナカマドなどが周囲の山肌を覆い尽くします。
 十和田湖は、二度の火山噴火によって形成された二重カルデラ湖という珍しい成り立ちの湖で、その面影は現在も御倉山、中山半島という2つの突端にうかがうことができます。湖のなかに突き出すように伸びるこの2つの「半島」のおかげで、十和田湖は眺める場所によってさまざまに様子を変え、何度訪れても飽きの来ない景観を提供してくれます。

紅葉の十和田湖

紅葉の十和田湖

 湖畔に整備されたビュースポットのなかでもおすすめは西湖畔の散策ルート。高村光太郎の最後の作品としても有名な「乙女の像」を起点に西湖(にしのうみ)をぐるりと巡るコースからは、湖畔や半島の紅葉をじっくりと眺めることができます。少し足を延ばせば、昭和天皇が好んであるいたという「陛下のさんぽ道」などもあり、ここでも色とりどりの紅葉をゆっくりと満喫可。
 また、十和田湖では、ぜひ引きの写真もおさえておきたいところ。滝ノ沢、紫明亭、瞰湖台といった標高600〜700メートル付近に設置された展望台から雄大な湖の遠景を狙ってみましょう。近づいたり、離れたりしながら、自分だけの十和田湖ベストポイントを探すのも醍醐味ですね。

帝釈峡—神龍湖(広島県)

水が生み出した屈指の奇観

 広島県の東北部に位置する帝釈峡は、総延長18kmにもなる雄大な峡谷。広島県内はもちろん中国地方でも屈指の景勝地で、日本百景にも選定されています。
 この帝釈峡の下流に、全長8kmにもわたって続く長い湖が神龍湖。大正年間に建造された帝釈川ダムによって生まれた人造湖で、現在は遊覧船も出される人気の観光地になっています。神龍という名前は龍のように幾重にもうねる湖の姿から名付けられたもので、この蛇行が場所ごとに景色をかえる効果を生み出しています。

紅葉の帝釈峡

紅葉の帝釈峡

 湖を横切って走る県道から見下ろしてもじゅうぶん素晴らしいのですが、ここはやはり遊覧船に乗り込んで「湖面から見上げる紅葉」を体験したいところ。湖にかけられた3本の真っ赤な鉄橋や、露出した白い石灰質の断崖が、ここでしかみられない無二の景色を作りあげます。
 巨大な岩が天然の橋になってしまった、帝釈峡の「雄橋(おんばし)」もぜひ写真に収めたい奇観。高さ40メートル、全長90メートルという一枚岩が自然の浸食作用だけで中心をくり抜かれ橋になったもので、鬼、あるいは神様がかけた橋との伝説も残されているほど。当然日本では最大の天然橋で、世界三大天然橋に数えられることもあります。
 神龍湖から周囲の森を縦貫する中国自然歩道は、徒歩2時間ほどの散策コース。森の中で思いがけない紅葉スポットに遭遇することもあるかもしれませんね。

紅葉のみごとな巨木 「一本紅葉」

巨木の「一本紅葉」
 たった一本で見事な景色を作り上げる、巨木の紅葉。春の一本桜にあやかって、そんな巨木を「一本紅葉」と呼んでみました。

いわき市・中釜戸のしだれもみじ(福島県)

学術的にも貴重な、変異カエデの巨樹

 いわき市渡辺町中釜戸の観音堂敷地内にそびえる、樹高7メートルに迫るイロハカエデの巨木。正確には大小2本のカエデのペアなのですが、どちらも同じように白い肌の幹を複雑にくねらせ、遠目にはまるで一本の巨木のようにも見えます。
 根回りの太さは約3メートルで、傘をさしかけたように広げた枝張りは10メートルほど。なぜこれほど複雑な樹形に育ったのかは詳しくわかっておらず、枝が枝垂れるのも突然変異だろうと考えられています。しだれもみじとしては大木の部類ですが、詳しい樹齢も不明。なんとも神秘的な、謎多き巨木です。
 ちなみに、この木の正式名称はイロハカエデ。しだれもみじというのは園芸の世界での品種名ということになります。実はカエデもモミジも学術的には違いはなく、葉の切れ込みの深いのをモミジ、浅いものをカエデと呼んで区別しているのは、世界でも日本だけのようです。

 ともかく、中釜戸のしだれもみじは国の特別天然記念物にも指定されている、大変に貴重な巨木。付近には休憩施設や土産物店などもなく、知る人ぞ知る紅葉スポットといったところです。撮影の際は、車は徒歩5分ほど離れた指定の駐車場へ。路上駐車など迷惑になる行為は避け、マナーを守って貴重な紅葉を楽しみましょう。

中釜戸のしだれもみじ

中釜戸のしだれもみじ

身延町のオハツキイチョウ(山梨県)

伝説に彩られた、樹齢700年の不思議なイチョウ

 オハツキイチョウ、漢字で書けば「お葉付き銀杏」。イチョウの果実、つまりギンナンが葉っぱにくっついて育つという大変珍しいもので、イチョウの先祖返り種ではないかとも考えられ植物の進化を探る上でも貴重な品種です。

オハツキイチョウの葉と実

オハツキイチョウの葉と実

 オハツキイチョウは、一説には現在日本全国でもわずかに数十本しかないともいわれるほど大変にレアなものなのですが、このなかでも7本が国から天然記念物に指定され、さらにそのうちの3本がひとつの町のなかに集中しています。
 それが山梨県身延町で、貴重な3本とは上沢寺、本国寺、そして八木沢のオハツキイチョウ。ゆっくりみて回っても所要時間は1〜2時間程度、そんな範囲に国指定の天然記念物が3本も…ウソのようですが、本当の話です。

 上沢寺、本国寺の2本は推定樹齢700年ともいわれ、身延町とも縁の深い日蓮宗の開祖・日蓮上人がお手植えしたという伝説が残されています。樹高はどれも20メートルを超える堂々たる大木で、伝説にも真実味を感じさせるよう。国指定の3本の他にも、町内には町指定天然記念物のオハツキイチョウが6本もあり、まるでイチョウ銀座とでもいったところ。思わず「全部撮ろう」とコレクター魂をくすぐられてしまう方もいるかもしれません。

滝と紅葉の名所

滝と紅葉
 激しい瀬に翻弄される葉、ゆるやかな流れにたゆたう葉…どちらも絵になりますね。そして、流れ落ちる滝と紅葉も、趣のある取り合わせ。冷たい秋の川にほんのり暖かみが添えられます。

奥入瀬渓流(青森県)

日本一有名な渓流は千変万化の滝の名所

 渓流の名勝地・奥入瀬。3つの流れが合流する三乱の流れや、最も流れが早く、奥入瀬で一番美しいとされる阿修羅の流れなど、一度は訪れてみたい撮影スポットが目白押し。そして美しい流れは当然、美しい滝を生み出します。
 阿修羅の流れからやや下ると、現れるのが雲井の滝。流れ落ちる水は勢い良く岩肌にぶつかるため、25メートルもの落差がありながら滝壺がないという奥入瀬を代表する景観をつくっています。さらに数キロ下っていくと玉簾の滝に到着、そしてここから不老、白糸、白絹、双白髪と立て続けに滝が現れる密集地隊に突入します。この4筋の滝が一望に眺められるため、「一目四筋」と呼ばれるここもまた外せないビュースポット。紅葉の森の中に白滝がよく映えます。

 何段にも削られた岩肌を流れ落ちる九段の滝を通過すると、いよいよ奥入瀬最大の滝・銚子大滝がみえてきます。幅20メートル、水のカーテンのように落下する大滝も紅葉とのコントラストは最高。どの角度から撮るかによって映り込む葉の色味も変わり、同じ画は2枚と撮れないでしょう。
 ここまでくれば十和田湖まであとわずか。上流の焼山から十和田湖の子ノ口まで、約14キロの道のりは徒歩ならばおよそ4時間程度。体力や日程に合わせてコースを調整して臨みましょう。

秋の奥入瀬

秋の奥入瀬

赤目四十八滝(三重県)

小説の舞台にもなった神秘の滝

 約4キロの流れの間に、大小無数の滝をみることができる赤目四十八滝。「四十八」というのは実際の数ではなくて、その多さをたとえたものです。なかでも必ず押さえておきたいのは、赤目五瀑といわれる5つの滝。不動滝、千手滝、布曳滝、荷担滝、琵琶滝がそれで、どれも水墨画のように美しい流れを描く名瀑です。

 この他にも大日滝、行者滝、霊蛇滝……など、赤目の滝の名前には仏教的な響きのものが多いのが特徴。それもそのはず、もともと赤目は山岳信仰の霊場であり、修験者たちの修行の場として知られる秘境でした。
 その昔、修験道の開祖とされる役行者がこの地に修行していたところ、赤い目の牛の背に乗った不動明王が現れた、という伝説が「赤目」という地名の由来。近くに屋敷を構えたという伝説の忍びの頭領・百地三太夫もここを修行の場にしていたとか。何重にも不思議な伝説に彩られた土地で、もとは滝を訪れるのも「滝参り」という修行の一環でした。
 いまでは観光客にも開放され景勝地として楽しむことができますが、そんな由来を知って訪れると自然と背筋が引き締まるような、不思議な気配を感じられるかもしれません。

 直木賞を受賞し、のちに映画化もされた「赤目四十八滝心中未遂」はこの滝を主要な舞台とした作品で、映画では実際に赤目で撮影が行われました。神秘の滝は今もなお芸術家を引きつける魅力を発しつづけているようです。

秋の赤目四十八滝

秋の赤目四十八滝

 日本に数ある紅葉の名所を彩時記の視点から分類してご紹介しましたがいかがでしたか。オススメの紅葉スポットはまだまだたくさんあると思いますので是非投稿してご紹介ください。